プロローグ


 時系列はリュートによる邪龍討伐の数日前にさかのぼる。



 ──恋という概念を初めて知ったのは一年前に読んだ物語の中でだった。



 私の名前はリリス。姓はない。

 性別は女。年齢は十五歳。

 胸は……まな板という形容がふさわしい。

 身長は百五十センチに満たず、ちんちくりんという形容がこれほど似合う女もいないだろうと自分でも思う。

 ちなみに、私の仕事は龍王様の図書館の司書だ。

 基本は脳味噌までが筋肉なのが龍族の特徴で……故に、この仕事は純粋に暇だ。

 他にやる事もないので、暇つぶしには丁度良いという事で私が本に興味を持つのも必然だったのだろう。

 魔術書や学術書等は一ページを理解するのに時間がかかる。故に私はそういった書物を好んで読む。

 が、時には英雄譚のような物語に手を出す事もある。

 初めてそういったたぐいの本を読んだのは一年前だろうか。

 そういったヒロイックな物語には必ずヒロインが登場し、恋に落ちてハッピーエンドとなる。

 何冊かそんな話を読んだ事があるから、私も恋という概念を言葉では理解できる。

 しかし、経験のない事を概念……あるいは知識として以上に深く理解する事は非常に難しい。

 けれど私も一応は女だ。

 恋する乙女という気持ちが、あるいはその精神状態が一体全体どういうモノなのかを、上辺だけの知識ではなく実際に知りたいとは思う。

「………………恋愛……か」

 埃っぽい室内。

 いつもの如く、眠たげなまなこで魔術書に目を通しながら私はそんな事をひとりごちた。

 そしてなぜかあの人の事が脳裏に浮かぶ。

「…………全く、あの人は何をしているのだろう」

 リュートが龍の里を飛び出して行ってから二年が経った。

 あの後、龍の試練で父さんを屠ったリュートは龍の里における私の後見人というか……身元引受人となった。

 で、そのまま彼は一人でどこかに旅立ってしまったのだ。

『……一緒についていきたい』と言う私にリュートは首を横に振った。

 リュートが言うには私が強くなるためには今現在のこの環境が最適だと言う。だからこそ、リュートの旅路には同行させないのだと。

 確かに、そこらの魔法大学院であれば厳重管理されているような貴重な魔術書の類が、そこらに無造作に置かれているような状況は……世界広しと言えどもあまりないだろう。

 そして去り際に彼が私に残した言葉が三つある。

 一つは、二年後に必ず戻ってくるという事。そしてその際には言い付けを守っていれば、リュートについていっても良いという話だった。

 二つ目、私に一通りの魔術の基礎知識を身に付けておくように……という事。

 そして最後の一つは……。

 ゴーン。ゴーン。

 と、その時、館内に鐘の音が響き渡った。

 それは夕没を告げる合図で、私の就業時間が終了したということを意味する。

 椅子から立ち上がり、書類を片付けていく。

 龍王の大図書館は龍の里の住民登録その他の雑務も行っているが……先述のとおりに基本は暇だ。

 受付カウンターの下に置かれているナップザックからサンドイッチと水筒を取る。

 一口かじり私はサンドイッチの端を口に含んだまま立ち上がった。

 もぐもぐと咀嚼。

 戸締りを終え、周囲を軽く一瞥し、歩き始める。


 ──歩く先は出口ではなく、図書館の奥だ。


 幾層もの埃が積もる、そんな長い長い廊下を延々と歩く。

 突き当たりにあるのは、幾重もの防性魔法に守られた堅牢なる鋼鉄のドアだ。

 懐から鍵を取り出し、私は重苦しい音と共にブ厚いドアを開く。

 開いた先は螺旋階段となっている。そのまま私は下方に向けて歩を進めていく。

 どれほど歩いただろうか。途中、先ほどと同様のドアに再度遭遇する。

 今度は鍵ではなく掌をドアにピタリとくっつける。


 ──指紋認証という奴だ。既に、この階層はセキュリティーという意味ではしゃにならない領域に達している。


 更に螺旋階段を降り、再度似たようなドアと遭遇する。

「司書リリス」

 言葉と同時にロックが解除される……これは声紋認証。

 更に私は螺旋階段を降りていく。

 どこまでも、どこまでも降りていく。

 そうして私はようやく辿り着いた──ここは龍王の大図書館の最下層で、最も厳重に管理されている区域だ。

 私は懐に手を入れる。

 最後のドアのロックを外す鍵は……龍王様から直々に賜った……許可を意味する宝珠による認証なのだ。

「……良し」

 一呼吸置いて、掌に取った龍王の宝珠をドアにかざす。

 と、ひとりでにオリハルコン製のドアが開かれていく。

 そこまでの厳重なロックの全てを突破し、ようやく私の目の前に広がる空間。

 それは一辺が五メートル程度の立方体で……端的に言えば小部屋だ。

 具体的な内装としては中心部に机が置かれていて、厚さ三十センチ程度の本が置かれているという形。

 椅子に座ると同時にブ厚い本を手に取る。


 ──秘術書:エクシオ・ドラグディンゲン。


 言うまでもなく、このセキュリティーの全てはこの書物のためだ。

 平たく言えば、コレには龍族の生み出した魔術の極限が記されている訳で、故に最上位のセキュリティーで保護されている。

 魔術とは通常、汎用魔法とオリジナル魔法の二種類に大別される。

 例えば炎系で言えば汎用魔法はファイアー、ファイアーボール、フレア、ハイフレアとなっている。

 基本魔法と呼ばれる領域はファイアーとファイアーボール。

 そしてフレアとハイフレアがそれぞれ上位魔法、最上位魔法となっていて、一般的に汎用魔法と呼ばれる領域はそこまでとなる。

 一般的に強者と呼ばれる領域の魔法使いになりたいのであれば……ハイフレアを使えれば十分だ。

 それを扱う事ができるレベルであれば、冒険者ギルドでベテランと肩を並べても、それなり程度の活躍ができるだろう。

 しかし、一般的な強者ではなく、個人として戦術兵器と呼ばれるような……つまりは英雄の領域になってくると話は違う。

 そこから先は汎用の魔術ではなく、オリジナルで開発された術式を身に着ける必要があるのだ。

 そこで、そういった術式の取得法が問題となってくる。

 汎用魔術であれば、ある程度の基礎ができていれば……後は努力の問題で、適性さえあればモノにはできる。

 実際、元々、私は父さんに魔術師として仕込まれていたし、ここ二年は魔術書にずっと目を通していた。

 故に、全分野での基本魔法は既に習得済みとなっている。

 が、上位魔法や最上位魔法で言うのであれば……純粋に私のレベルとステータスが足りていない。

 故に、その領域であれば使えないものが大半だ。

 が……少なくとも知識としては習得しているので、ステータスの使用条件を満たせばすぐに扱う事はできる。


 ──そして今、私がこの部屋でやっている事。


 それは汎用魔術の最上級魔法の……更に上の領域の魔術知識──つまりはオリジナル魔法の習得だ。

 一般的にオリジナルの魔法を身に付けるために、最もポピュラーなのは大魔導士に師事する事だ。

 魔術にも流派があり、オリジナル魔法とはそのものズバリで武術の秘伝に近い物がある。

 物凄く単純化して説明するのであれば、それは高位の内弟子の中でのみ共有されて身内だけで更に研ぎ澄まされていくようなシロモノである。

 オリジナル術式と言えば流派一門の歴代の高弟達の血と努力の結晶なのであり、門外不出となるのも当然の事だ。

 身に付ける事が至難の技である事は当然として、そもそもの魔術書に辿り着くまでの下積みが必要であり、相当な時間がかかる。

 そして、私の目の前にあるこの魔術書も当然、本来は閲覧するには相当の権限が必要なものだ。

 基本的には龍族は肉弾戦がメインだ。

 だが、地龍族の一部には変わり者が──私の父さんもそうだったのだけれど──存在する。

 この魔術書はそういった有志が作り上げた術式の体系が記された、門外不出のものであるのだ。

 必然的に、私程度の者に本来は閲覧の許可は出ない。

 が、リュートと龍王様でこんなやりとりがあった。

『おい龍王』

『なんだい? リュート?』

『リリスにエクシオ・ドラグディンゲンの閲覧権限を与えろ』

『ふむ。おかしな事を言う……っていうか命令口調か……ハハっ。まあいいや。で……アレは龍魔術だから普通の人間には扱えないよ? 龍と人間では脳の構造が根本的に違うからね。必然的に魔法を組む際の脳内術式も展開の仕方が全く異なる』

『まあ、そうだろうな。パソコン用に組んだプログラムやらアプリやらがスマートフォンで動くわけがないって理屈だな』

『プログラム?』

『いや、気にしなくていい』

『ふむ。まあそれはいい。エクシオ・ドラグディンゲンの閲覧権限を与えるのは構わない。けれど、魔法としての質は格段に落ちるが──人間でも扱えるオリジナルの高位魔術書は図書館にはいくつもある。そういった魔術書の閲覧権限でいいんじゃないのかい?』

『いや、それじゃあ困るんだ』

『困る?』

『リリスは俺についてきたいって言ってるんだよ』

『ふむ?』

『だったら龍魔術程度は使ってもらえないと……俺が困る』

『ハハッ……龍魔術程度ときたか……これは良いね。分かったよ……確かにここで学ぶ事ができる中では最強の魔法だ。種族の壁をどうやって突破させようとしているかは分からないが……好きにするが良い』

 それから、私は一日も休まずに仕事を終えてからの時間……深夜までこの作業を毎日行っている。

 つまりは、図書館に泊まり込み、秘術書に記されている魔術式の一文字一文字を脳に植え込んでいくという作業をしているという訳だ。

 そう──毎日毎日気の遠くなるような程の時間、言いつけを守って、ずっとずっと同じことをしているのだ。

 ページを繰り、そして一呼吸ついた。

「……脳に術式をインプットする事はできるが……しかし私は龍ではない」

 膨大な量の情報──既に概ね七割方は魔法式として頭の中に入っている。

 私もある程度の魔術知識があるから分かる。

 この魔術書に記載されている術の数々は、極大魔法と言っても差支えのないレベルのものばかりだ。

 しかし……やはり私は龍ではないのだ。

 魔法式という名の定型句を脳内にインプットしたとしても、脳内の魔力回路でシステムエラーとなり……魔力は途中で飛散し、術として外部の物理法則に干渉することはない。

 それは犬や猫に声帯を駆使して言語を喋れと言う程の無茶。

 理論上、私が龍魔術を行使する事は不可能なのだ。

「……これに一体何の意味があるというのだろう」

 そこで私は溜息をついた。

 が、すぐに首を左右に振る。

 何度も繰り返した自問自答。リュートがやれと言ったからそれに従うしかない。

 どの道、私には他にやる事もない。

 あの日、リュートは私を置いて……一人で旅立ってしまった。

 曰く、『二年後に必ず戻ってくる』とのことで、課題をクリアーしていれば一緒に連れていってやっても良いとの話だった。

 それから七百六十日余りが経過した。

 約束の二年はとっくに過ぎている。


 ────今思えば、あの言葉は私を言いくるめるための方便だったのだろう。


 父さんを屠った時に、彼が欲しかったのは……結局のところスキル:神龍の祝福だけだったのだ。

 あるいは、あの時のその場の勢いで『連れていってやる』みたいなことを言っていたが、冷静になって考えも変わったのだろう。

 私の事が邪魔になって……とはいえ、ストレートに『やっぱり連れていけない』と切り捨ててしまうのもやりづらいという事で……そして訪れたのが現況だ。

「……ふぅ」

 約束の二年が過ぎてから、ここ一か月余り……私の日常は溜息に覆い尽くされている。

「……期待なんてさせずに……課題なんて出さずに……切り捨ててくれれば良かったのに」

 生まれた時から不運続きで物心ついた時には既に奴隷だった私。

 父さんが死んでから本当に……凍て付いてしまった私の心。

 あの日……彼が『来るか? 一緒に』と尋ねてくれた時、何故だか私の心に光が差し込んだ気がした。

 そして彼と共に見る外の世界を想像して……不覚にも胸が躍ってしまったのだ。

 そんな事を思い出していると、視界が涙で霞んでくる。

 目から出た涙が零れないように私は天井を見上げる。

「……バカバカしい。本当に……バカバカしい。来るはずのない男の言いつけを守って七百六十日……毎日毎日……本当に……」

 魔術書を閉じて私は立ち上がった。

 そして、うんと頷き決意する。

 ──再度……私は心を凍て付かせよう。心が動かなければ期待もしない。期待をしなければ傷付かないし落胆もしない。

 うん。

 私はこの図書館でずっと生きていこう。

 どうせ生きる事なんて死ぬまでの暇つぶしだ。ここなら暇つぶしには困らない。

 死ぬまでの全ての時間を読書に費やしても……蔵書の一割に目を通す事もできないだろう。

「……バカバカしい。本当に……バカバカしい」

 ドアに向かうと同時に頬を涙が伝った。

 ローブの裾で涙をぬぐってドアノブに手を伸ばす。

 と、その時こちら側からではなく、逆側からドアノブが回され──ドアが開いた。

「……あっ」

 私の言葉と同時、あっけらかんとした能天気な声が室内に響いた。

「少し遅れた。今日で二年と……一か月と少しだな」

 背丈が大分伸び、体付きもガッシリとした風に見える。

 けれど屈託のない笑顔は私の記憶にある少年と完全に一致した。

「………………リュート?」

「いきなりだが本題に入らせてもらう。お前に出した課題だが……魔術は使えるか?」

 本当に呆れた。

 龍の里に来たのも突然なら、出ていったのも突然。

 そして帰ってきたのも突然で、挨拶をする間もなくいきなりの単刀直入。

 本当に忙しい男だ。

「……基礎なら……全部。ステータスさえ満たせば……上位も最上位も含めて汎用魔法は全て扱える」

「龍魔術は?」

「……アレは私には使えない」

「そんな事は分かってる。使える使えないの問題じゃなくて……どこまで習得している?」

「……私の種族が龍族なら……そしてステータス条件を満たせば……七割方の術の行使は可能」

「良し」

 ニッコリと笑ってリュートは私の頭を無遠慮にワシワシと撫でまわした。

 リュートに触れられると同時、私はどうしていいか分からなくなって、その場で固まってしまう。

 まつ毛を伏せると同時に頬が瞬時に熱を帯びていく。



 恐らく私は今……猛烈に赤面している。

「後、アイテムボックスのスキルはどうなっている?」

 それは課題とは言われていなかったが、余力があれば習得しておいて欲しいと、あの日に言われていた事項だ。

「……指示通りにそれは鍛えに鍛えた。スキルレベルはマックスで……今なら少量であれば……ボックス内の時を止める事も可能で生鮮食品の運搬もできる。ちなみに通常運用であれば一トンまでなら収容可能」

「上出来だ」

 リュートは嬉しそうに笑い、更に乱暴に私の頭を撫でる。

 本当に乱暴だが、何故だかそれが非常に心地好い。

 胸が締め付けられるように高鳴り、爆発しそうな程にドクンドクンと脈打つのが分かる。

「リリス。良く頑張ったな」

 褒められた。

 その瞬間に頬だけではなく、上半身全体が火照りそうなほどの熱を帯びた。

「アイテムボックスの関係は、村人である俺には才能限界の関係でどうにもできなかったから……助かるよ」

「……ねえリュート? 聞いてもいい?」

「なんだ?」

「どうしてこんなに時間がかかった? どうしてすぐに……一緒に連れていってくれなかった?」

「俺自身がまずは強くならなくちゃいけなかった……俺の行く道は全て危険な場所だ。だからまずはお前を守れるように……俺自身がな」

「……うん。それで?」

「それでって言うと?」

「強く……なれた?」

 うんと頷きリュートは自信に満ちた表情を作る。

「そう思ってなかったら、お前を迎えに来ちゃいねえよ」

 迎えにきたというフレーズで、更に私の胸の鼓動は一段と高鳴ってしまう。

 本当に頭の中はパニックで……何と言っていいか分からない。

 でも、確かな事が一つある。


 ──報われた。


 この図書館で……この二年間私がやってきた事、その全ては今この瞬間に報われたのだ。

「あと……リリス?」

「……何?」

「お前のために探していて、そしてようやく手に入れた指輪だ。受け取ってくれるな?」

「……?」

 懐から指輪を取り出したリュートは私の左手を手に取った。

 そして中指に指輪を嵌める。

「……え?」

 本当にどうしていいか分からない。

 左手の中指の指輪……これはこの大陸では婚約の指輪である事を意味する。

 もう、本当の本当に、何がなにやらわけが分からない。

 リュートの笑顔と頭を撫でられる感覚。そして左手中指に嵌められた指輪。

 頭がフットーしそうになりそうな中、ただ一つだけ私は理解していた。

 断言しよう。

 私は今、これまでの人生で一番嬉しい。

 うん。本当に…………報われたのだ。

 そんな私の心境を知ってか知らずか、リュートはあっけらかんと口を開いた。

「それじゃあ行くぞ?」

「……どこに?」

「邪龍の討伐だよ。これから俺の生まれた村に戻る。龍王の預言によると、俺の幼馴染が……独力では確実に死ぬらしい。だから助けに行く」

「……え?」

「で、そっから先はちょいっとハードだ。俺が今まで旅していた場所がどこか分かるか?」

「……人類の生息圏外?」

「そうだ。魔族や魔物の総べる魔界だとか呼ばれる場所か、あるいは、ほとんど誰も足を踏み入れたことがない極地だとか秘境だとか言われる場所だな。この二年間俺が巡っていたところはSランク級冒険者でも回れるようなイージーモードの場所だったんだが……今回はちょっとヘヴィーな箇所まで潜る。世界中を巡って徹底的に俺とお前を鍛え上げる。そして……一年後」

「……一年後?」

「十六歳になった俺の幼馴染は魔法学院に入学するんだよ」

「……それで?」

「そして、俺もお前も一緒にそこに入るんだ。陰から勇者をサポートするために」

 はは……と私は呆れ笑いを浮かべる。

 龍の里を出た時点でリュートは、Cランク~Bランク級の、十分に強者と言える冒険者程度の実力は身に付けていた。

 そして今の会話からすると、たった二年でAは愚か、Sランク級の壁を突破したようだ。

 Sランクと言えば個人で戦略級の戦力を有する事を意味していて、田舎の小国であれば単独で壊滅させる事が可能な程度の、無茶苦茶な戦力である事を意味する。

 どうにも私を取り巻く環境は、想像もつかない状態にまでスケールが大きくなっているらしかった。

「お前を迎えに来るのが遅れた通り時間は切迫していてな……悪いが夜明けまでに荷物をまとめてくれないか?」

「……了承した」

 本当に忙しい男だ。

 嵐のように現れて嵐のように過ぎ去っていく。

 私もボヤボヤしていると……この男についていけずに、すぐさま振り落とされてしまうだろう。

 そんな事を思いながら私は笑みを作り、そして思った。



 ──恋という概念を初めて知ったのは一年前に読んだ物語の中でだった。



 確かに知識として知ったのは物語の中で……だと思う。

 けれど、二年と少し前のあの日あの時、彼と出会った時から、既に私はその概念を感覚として完璧に理解していたようだ。






 名 前:リリス

 種 族:ヒューマン

 職 業:魔術師

 年 齢:十五歳

 状 態:魅了(重度)

 レベル:38

 H P:650/650

 M P:2100/2100

 攻撃力:105

 防御力:150

 魔 力:420

 回 避:350

 強化スキル

  【身体能力強化:レベル10(MAX)】

 通常スキル

  【初級護身術:レベル10(MAX)】

 魔法スキル

  【魔力操作:レベル10(MAX)】

  【生活魔法:レベル10(MAX)】

  【初歩攻撃魔法:レベル10(MAX)】

  【初歩回復魔法:レベル10(MAX)】

  【中級攻撃魔法:レベル10(MAX)】

  【中級回復魔法:レベル10(MAX)】

  【上位攻撃魔法:レベル10(ステータス制限により使用不可)】

  【上位回復魔法:レベル10(ステータス制限により使用不可)】

  【最上位攻撃魔法:レベル10(ステータス制限により使用不可)】

  【最上位回復魔法:レベル10(ステータス制限により使用不可)】

  【龍魔術:レベル7(種族及びステータス制限により一部を除き使用不可)】

 特殊スキル

  【アイテムボックス:レベル10(MAX)】

  【神龍の守護霊:レベル10(MAX)】