第一話 「ティレアの剣術道場だよ(前編)」
うーん、いい天気だ。ピカーンと青空が広がってピクニック日和である。
今日、俺とティムはベルガ平原に来ていた。いつもは変態とかベルとかお馴染みのメンバーしかいないのだが、今回は大所帯、ティムの親衛隊総勢五百名が集まっていた。圧巻だね。
ティムの親衛隊と正式に会うのはこれが初めてだ。見たことがある奴もいればない奴もいる。
歳は二十代から六十代まで……。
さすがティム、幅広い層から人気を得ているよ。
俺がティムに感心していると、バタバタと数人駆け寄ってくる。
はぁ~またか……。
「ティレア様、お目にかかれて嬉しゅうござる!」
「ティレア様、我が雄姿を御覧ください」
「ティレア様にどこまでも付き従う所存です」
「はは……私も一度、あなた達に会ってみたかったのよね」
「「ははっ、もったいなきお言葉です!」」
さっきからこんなやり取りを何度も行っているのだ。
こいつらテンションが高すぎ!
親衛隊の皆が皆、俺を見るなりヤンヤヤンヤと言葉をかけてくるのである。
どいつもこいつも中二病っぽい。まったくいい年して恥ずかしいぞ。変態だけが特別と思ったが、違った。類は友を呼ぶらしい。皆、いい線いってやがる。
「ふふ、お姉様にお会いして、皆、士気が高まっております」
「そうみたいね。よっぽど私の技に興味があるのね」
「お姉様、我もぜひ空を切る技を拝見しとうございます」
「うっ。や、やってはみるけど……」
「我も近衛も楽しみにしてます」
そう、今回ベルガ平原に集まった目的は、邪神技のお披露目だ。親衛隊の皆が俺の技、特に邪神流刀殺法「ババン=ストレッシュ」をいたく気に入ったみたいなのだ。
俺がこの前のお茶会で話した黒歴史を、ティム達が親衛隊に暴露……。
するとどうだ!
私めも拝見したいとあれよあれよと希望が集まったそうだ。ぜひ実演してほしいってよ!
前世の黒歴史を他人に知られたくなかったから断ろうと思った。だけど、ティムがどうしてもってお願いするもんだから承諾してしまったのだ。ティムの熱意にほだされちゃったよ。本当、俺はティムに甘いんだよね。
「それではお姉様、この辺にしませんか?」
「そうだね。この辺なら人に見つからないよね?」
恥ずかしい黒歴史を見せるのだ。中二病でない人には見られたくはない。だから、町を出てベルガ平原まで来たのだ。
「はっ。周囲は偵察済みです。情報漏れはありません。ティレア様は存分にお力をお使いください」
そう言ってベルが太鼓判を押した。確かに周囲は木々で囲まれているし、人っ子一人いない。ここなら誰にも見つからずに済みそうだ。
「そうね。ここにしましょう」
ティムや変態、そして親衛隊の皆が目を輝かせながら俺を見ている。
そんなに中二的な技を見たいか? お前ら、本当にこういうの好きだな!
まるで子供がデパートの屋上でヒーローショーを楽しみにしているような感じだ。聞いたところ、親衛隊全員が数日前から楽しみで夜も眠れなかったそうである。
はぁ~君達、平和でいいね。俺なんてここ数日生きた心地がしなかったよ。何せ借金地獄でお店は危急存亡の時だったのだ。レミリアさんがいなければ一家離散。下手すれば俺とティムは奴隷商人に売られていたかもしれないのに……。
まぁ、借金の件は解決したと言ってあるから、ティム達が気にしていないのは当然といえば当然か。ただ、どういう風に解決したかは具体的に話していない。
だって、ワルモンの巣窟に殴りこみして、借用書をびりびり破いてきたなんて言えやしないよ。もう終わったことだ。そんな物騒な話をしてむやみに怖がらせる必要はないのだから。
真実は俺の胸の内にしまっておく。あの時、ティムは店ごと吹き飛ばすなんて強がっていたけど内心は怖かっただろうしね。レミリアさんが警備に突き出したおかげで、奴らは当分シャバには戻ってこられない。もうお店に脅威はないのだ。
あっ! それもティムに伝えないとね。もしかしたら奴らが戻ってくることを内心怯えているかもしれない。
「ティム言い忘れていたけど、この前の奴らはもう店には来ないから。安心していいからね」
「お姉様、奴らとは?」
「ほら、この前、借金の件でお店に来た嫌な奴らのことだよ」
「あぁ。お姉様に無礼を働いた罪深き輩達ですね。奴らでしたらまとめてガルガンのエサにしてやりました。取り残しはありません」
「そ、そっか……ガルガンのエサね。ま、まぁ、ティムが気にしていないのなら、この件は終わりにしましょう」
「いえ、一つだけ気にしています」
「やっぱり! ティム大丈夫だからね」
ティムが内心トラウマになっていたのなら、すぐにフォローしなければならない。
「お姉様が大丈夫でも我は許せません。奴らの首魁を楽に殺してしまいました」
「へ、へぇ~どんな感じで?」
「奴はカミーラ様の魔弾で跡形もなく消え去りました」
変態がティムの中二言語に乗っかってきた。こういう会話でも素早く中二的フォローができるのはある意味尊敬するよ。
「跡形もなくねぇ~」
「はい。我は考えうる最大限の方法で残酷に殺してやるつもりでしたが、奴があまりに小賢しい真似をするので思わずやってしまったのです」
「まったく、死する時でも無礼な奴でしたな」
「うむ。奴は殺しても飽き足りぬ」
「よ、よし、問題ないわ。ティム」
ティムと変態は二人で口惜しそうに話す。なるほど、そんな強がりを言えるならトラウマにはなっていないようね。
良かった。良かった。良かった……よね?
うん、そうだ中二的言動は別問題だ。
「それじゃあ、始めるわよ」
「お姉様、実演にあたりぜひ立ちあわせたい者がいます。よろしいですか?」
「う、うん」
あぁそういえば親衛隊にも凄腕の剣士がいるとか言ってたね。
そいつか?
確か名前はミュッヘンで変態曰く、実直な剣士らしい。
「ミュッヘン、お許しが出たぞ!」
「はっ」
親衛隊の列から一人の男が進み出てきた。歳は六十代か。その顔に刻まれた皺は苦労人を思わせる。中二病には見えない。
「ティレア様、お初にお目にかかる。ミュッヘン・ボ・エレトと申します」
「あなたがミューね。なんでも親衛隊随一の剣士だとか?」
「いえ、あっしはそれほどの者ではございません」
おっ、謙虚な奴だ。親衛隊は中二病で大言壮語を吐く奴らしかいないと思っていた。いい意味で予想を裏切る展開である。これは好感を持てるぞ。
「それじゃあ、ちょっと手合わせしてみる?」
「はっ。精一杯相手を務めさせて頂きやす」
うん、言動が常識ある大人っぽい。中二病じゃない実はやり手の剣士とか?
ま、まさかね……。
所詮は変態の遊び仲間だ。期待を持つだけ損というもの。こいつも中二病と思っていたほうが良い。
中二病患者ならエセ剣士だ。素人同士、木の棒でちょこちょこっとお互いを打ち合えばいいだろう。たまに技名を言ってお茶を濁せばいいしね。
「ティレア様、それではこの得物をお使いください」
「は、はい?」
変態は刀身艶やかな見事な剣を渡してくる。
はは、やっぱり銃刀法違反がないから手軽に手に入るんだ。
ったく、この世界に竹刀があるとは思っていないが真剣はないだろぉお──ッ!
無理無理無理! お前、冗談じゃないぞ。死ぬからまじで! だから中二病がすぎるのは嫌なんだ!
「ちょっとニール、こんなもの使ったらいくらなんでも死ぬわよ!」
「こ、これは考えが足らず申し訳ありません」
変態は恐縮して答える。いくら中二病だからってふざけすぎるのは問題だよ。でも、どうやらわかってはくれたようね。変態も少しは成長したようだ。
「それではこれをどうぞ」
「は、はい?」
変態はしらっと木刀を渡してくる。見るからに硬そうな材質だ。
樫の木か、これ?
叩かれたら頭がザクロになりそうだね。
「真剣などを渡してティレア様が大事な部下を殺してしまうところでした」
「あ、あのねぇ、あなたはふざけているの?」
「い、いえ、決してそのような……」
「いいや、ふざけてる!」
おい、木刀でもまともにくらえば死ぬこともあるんだぞ!
ってか相手は真剣のままじゃねぇかぁあ!
何故、俺だけ武器レベルを下げなきゃならない!
お前、本当に舐めてるね。もしかして日頃の恨みを晴らそうと思っているのか?
「ふふ、お姉様は木刀でもミュッヘンを殺してしまうとおっしゃっているのだ」
「そうでした。ティレア様はそれほどのお力でした」
いやいや何言っているのティム、お姉ちゃんを殺す気なの? 相手は真剣を持っているんだよ。
「どれ、これくらいが適当ではございませんか?」
ティムは適当な小枝を俺に渡してくる。
これ……今にもポキリと折れそうだよ。
え!? これでどうしろと?
ティムに抗議の目を向ける。だが、ティムは信じてやまない尊敬の眼差しで俺を見つめ返してくる。
き、期待している。ティムが期待の目で俺を見ている。この目は尊敬されているお姉ちゃんとして裏切れない。
「ふっ。これでも手加減しないといけないけどね」
「さすがです、お姉様。ミュッヘンは近衛隊随一の剣士。その剣技は六魔将ザンザにも引けを取りません。我は心躍っております!」
「くっあっはっはは。さすがは我が主でいらっしゃる。これほどのハンデを貰っちゃ、是が非でも一本とってみたいですなぁ」
あぁ、まったく俺って奴は全然成長していないよ。なんで調子にのるかねぇ。ティムに期待されると裏切れない。こうなればミューの良識に期待しよう。いくら中二病でも小枝持っている人に本気で斬りかからないよね? いや本当、命がかかっているから勘弁してほしい。
第二話 「ティレアの剣術道場だよ(後編)」
俺とミューが対峙する。俺はポキリと折れそうな小枝を持ち、ミューは切れ味が良さそうな真剣を構えている。
やばいよ。やばいよ!
どこかの芸人さんを彷彿させるシチュエーションだ。
これなんて無理ゲー?
親衛隊の皆はわくわくしているようだが、公開処刑もいいとこである。
どうやってこの場を乗り切るか……。
俺の心配をよそにミューは平然とした──いや、よく見るとミューの額からじんわり汗が出ている。
なんだ。ミューも緊張してるじゃん。そりゃそうだよ。いくらお遊びでも真剣を持たされたらさ。
どうやらミューも周りの雰囲気に乗せられた口のようである。俺と同じ被害者だ。ミューは中二病の奴らみたいにバカ騒ぎしているわけではない。
よし、そういうことなら大丈夫。ミューは見るからに苦労人の顔をしているし、これからやるべきこともちゃんと予測しているにちがいない。
そう、これからいわゆるプロレスショーをやるのだ。どちらが攻撃してどう受けとめるかを決めるのである。さりげなくミューに近づいて段取りを話し合おう。
そうと決まれば早速行動に移す。俺はミューに近づこうとするが、
「それでは参りますぞ。とぉりやぁああ!」
「ちょ。ま、まずは段取り──ってまじかぁ!」
俺の思惑とは裏腹にミューはいきなり斬りつけてきたのだ。ミューの豪剣が眼前に迫る。俺は無我夢中でそれを小枝で受け止める。小枝と剣がぶつかりガキィンと衝撃が走った。
ひぃえぇえ! 真っ二つ?
い、いや、折れていない……。
小枝は無事に剣を支えていた。どうやらミューは俺の意図を察し、力を抜いてくれたようである。
でも、こんな茶番をやって周囲はちょっと冷めちゃったよね?
横目で親衛隊の顔を見る。だが、予想に反して親衛隊の目が歓喜に満ちているのだ。
……どうして?
俺の疑問は正面のミューを見ると氷解した。
「ぐぬぬぬうぅ!」
ミューは顔を真っ赤にして必死な様子で打ちつけてくるのだ。
こ、これは殺陣をやっている!?
そう、ミューは映画や時代劇でお馴染みの殺陣、つまり、斬りあいの演技をしているのである。やはり俺の目に狂いはなかった。ミューはこの空気を壊さず、しかも俺に怪我をさせないように打ちつけているのだ。
ミューはヒドラーさんと同じタイプだね。ティムの友達で初めてまともな人に出会えた気がする。
それにしてもアカデミー賞ばりの演技だ。必死の形相が伝わってくる。うなりをあげる豪剣といった感じだ。
これ、よく折れないよね?
小枝を折らないようにパントマイムをしているんだろうけど、すごいの一言だ。だって俺にはほとんど負荷がかかっていないんだよ。それでいて小枝に剣をがんがん当てているようにも見える。多分、絶妙の感覚で寸止めしているのだろう。並の技術じゃない。ミューが凄腕の剣士というのは、あながち嘘ではないのかもしれない。
「さすがはお姉様。ミュッヘンが攻めあぐねております!」
「まさに感服する腕前でござりまする」
「それに見よ。ミュッヘンの刀のほうが悲鳴をあげておるわ」
「はっ。ティレア様の魔力で包まれれば、ただの小枝もオリハルコン並みの強度になるというわけですな」
まったくあなた達は……ミューの苦労も知らずに中二言語全開ね。
まぁ、いいや。あなた達に乗っかってあげよう。これほどの演技をしてくれているミューに悪いしね。さぁ、邪神らしいセリフの一つでも言ってみますか。
「ふふ、ミューどうしたの? 本気を出しなさい。これでは『ババン=ストレッシュ』どころか通常攻撃だけで終わってしまうわよ」
「はぁ、はぁ、なんて硬さですか。うぉおおお!」
俺の挑発に触発され、ミューが気合の入った雄叫びをあげる。そして、さらに数回俺達は打ち合いを続ける。
「ニールゼン、我は驚愕しておる。お姉様はあれだけの豪剣を受けながらまったくその場から動いておらぬ」
「ティレア様はまだまだ余裕のご様子ですな」
あんた達、さっきからミューの技術に対してひどいぞ。
それに一歩も動いていないって……たまたまですよ。ただただ八百長しているから簡単なだけです。
でも、そんなセリフを聞いちゃうと言わずにはおれないなぁ。まったくあなた達、俺の琴線に触れるような言葉ばかり言うもんだから……だめだ。やっぱり言わずにはおれない。
「ティム、よく気がついたわね。これぞ邪神七百七十七の技の一つ、邪神ゾーンよ」
「邪神ゾーン!? それはどういった技なのでしょうか?」
「これはね、相手の攻撃を自分の思うままのところに攻撃させるの」
「素晴らしいです。どうりでお姉様が先ほどから一歩も動かなかったわけですね」
ティムが納得し、尊敬の眼差しで見つめてくる。親衛隊の皆も同様だ。やはり、中二病者にはそそる言葉だったらしい。
「はぁ、はぁ、ティレア様、想像以上です。あっしも本気の本気で行きますぞ!」
「その心意気や良し。私も少し本気になってあげるわ。今から剣技をだすから吹き飛ばされないように」
「それは是が非でも撥ね返して御覧に入れやす」
「本当よ。絶対に吹き飛ばされないでね。絶対よ。絶対だからね!」
「心得ました」
よし、これだけフリをしておけば、空気の読めるミューなら理解したはずだ。きっと俺の技に合わせて吹っ飛んでくれるだろう。
それじゃあ某漫画の剣士の技を使いましょうかね。『おにぎり』ではなくここは異世界風にしてみるか。異世界だと鬼ではなくゴブリンだから……。
よし、決めた。俺は持っている小枝を二つに折り、それを十字に交差させる。
「二刀流ですか?」
「正式には四刀流だけどね」
「それじゃあ、ミュー行くわよ」
「はっ。いつでもいいですぜ」
「出せば必ず吹き飛ぶ剣技よ」
「はぁあ、守備結界!」
そう言って、ミューは腹の底から踏ん張った姿勢に変化させた。大岩になったかのようにどっしりと構えたのである。
うん、堂に入っているね。剣を正面にかざし、一流の剣士が結界を張っている様は見ていて惚れ惚れする。
よし、俺も負けていられない。
俺は小枝を交差させたまま、気合と共にミューに突進し斬りつける。
「二刀流──ゴ・ブ・ぎりぃいい!」
「がはぁあ!」
ミューは俺の突進に合わせて後方に吹き飛んでいった。吹き飛び方も見事と言うほかない。本当に攻撃を受けて吹っ飛んだかのような、これまた絶妙なタイミングなのである。
もう、グッジョブだね。下手な芸人よりリアクション最高だったよ。
「つ、強い……ティレア様、今のはわかっていても止められませんでした」
「あなたもなかなかよ。『ゴブぎり』をくらって立ち上がるんだからね」
「へっへ、なんとも恐ろしいお方だ。怖さもありやすが楽しみが勝りやす」
「ふふ、まだやる気みたいね。でもゴブぎりで吹っ飛ぶくらいじゃあ、さらに大技は出せないわね」
「さらに大技ですと!」
「えぇ、四刀流奥義『四千世界』。ゴブぎりの数段上の大技よ」
「お姉様、それは『ババン=ストレッシュ』よりも上の技なのですか?」
横からティムが興味津々に質問をしてきた。
「う~ん、それは仲間内でも論議を呼んだわ」
「それは『にぃと』のお仲間ですね?」
「う、うぐっ。そ、そうよ。私は『ババン=ストレッシュ』が上だと思うんだけど『四千世界』が上だと言う人もいたわね」
「そうなのですか」
「うん、どちらも熱狂的な信者がいたからねぇ~。まぁ、どちらにしても私の剣技の中でも最上位の技だから」
「はっは。それは何がなんでも拝見したいですなぁ」
俺の剣技話にミューがくったくのない笑顔でそう話す。
「そう、それなら私を殺す気で来なさい。それくらいの心構えじゃないとミュー、あなた死ぬわよ」
「御意。我が主であろうと遠慮はしやせん。一介の剣士として最強に挑みます!」
ミューが覚悟を決めた表情になり、ぶつぶつと呪文らしきものを唱え始めた。そして、ミューが持っている剣が何やらうっすらと光り始めたのである。
もしかして魔法剣?
ミューやるね。これは見た目的にかなりおいしい。
ふふ、ミューは魔法剣まで使い演技をしているのだ。ミューの心意気を無駄にしてはいけない。このプロレスショーを絶対に成功させる。俺は腰を落とし、小枝を後方に移動させ「ババン=ストレッシュ」の構えを取った。
「おぉ! なんという神々しい構え……ニールゼン、片時も見逃すでない」
「ははっ。まさに深遠の極みですな」
外野ではティムと変態がこれ見よがしなセリフを連発している。
あ、あなた達ねぇ、ほっといたら調子に乗って言いたい放題だな。
聞いている本人は超恥ずかしいんだからね! ティム達も中二病が治った時、身もだえするはめになるんだから。
「行きますぞぉ! ──超魔炎剣!」
ミューが刺突の構えから腰を落とす。そして、魔法剣の切っ先を俺に向けて凄まじいスピードでダッシュしてくる。
……さすがミューね。八百長でもおしっこちびりそうなくらい迫力があるよ。俺も負けてたまるかぁ。俺は後方の位置にあった小枝を素早く引き戻す。
「邪神流刀殺法──ババン=ストレッシュ!」
「ぐはぁああ!」
俺の小枝とミューの剣が激突し、ミューは構えた剣ごと空中に放り投げられ、すごい勢いで後ろの大木に叩きつけられたのである
おぉ、いくら俺が「超必殺技を繰り出す」と言ったからってちょっと転がりすぎじゃない?
ってかそこまでサービスしなくても……。
ほら頭から血が出ているよ。怪我をしている。まぁ、おかげで観客は大盛り上がりだけど……。
「うぉお! さすがはティレア様!」
「深遠なるお力万歳!」
「邪神軍は永遠に不滅だぁあ!」
親衛隊から狂喜の雄叫びが巻き起こる。うん、エンターテインメント的には大成功だね。役柄とはいえミューには道化役を演じてもらった。本当いい奴だよ。