序章 滅びの日

 

 魔王カリオンは、緊張の面持ちで空を仰ぎ見た。

 遥か彼方から、高密度の魔力の塊が飛来するのが感じられたのだ。

 隠す気もない強大な妖気オーラ、紛れもなく魔王ミリムである。

 明らかに戦闘態勢であり、この国が目標のようだ。

 音速を超える速さで飛来したミリムは、カリオンの居城の上空にて静止する。そして、大音声で通告を行った。

「わっはっはっー!! ワタシはミリム・ナーヴァ。魔王なのだ! ワタシはここに、魔王間で取り交わされた全ての協定を破棄する事を宣言する。それには、魔王カリオンとの約定も全て含まれるぞ! その上で宣戦を布告するので、一週間後にまた会おうではないか。せいぜい頑張って、ワタシに対抗出来るように準備しておくのだ!! わーーーはっはっはーーー!!

 という内容で。

 魔王にして〝獅子王ビーストマスター〟であるカリオンは、この一方的な宣言に頭を抱える事になった。

「あの馬鹿、何を考えていやがる──!?

 だが悩むのは後回しにして、即座に命令を下す。

「この国にいる戦士、全員を集めやがれ! 今直ぐにだ!!

 その命令は速やかに実行され、大広間に三獣士以下、獣王戦士団が揃ったのは一刻後の事であった。

「カリオン様、グルーシスを除く全員が揃いました」

「おう」

黄蛇角オウダカク〟アルビスの報告に、鷹揚に頷くカリオン。

 この一刻の間に、頭の整理を終えたらしい。

 カリオンの言葉を待つ一同を前に、カリオンが重々しく告げる。

「一週間後にミリムのヤツが攻めて来る。あの野郎、魔王間の協定を魔王達の宴ワルプルギスにもはからずに、勝手に破棄しやがった。これは、十大魔王全員を敵に回す行動だぜ。余りにも解せん。確かにアイツは短絡的なところがあるが、狡猾で思慮深い面もある。何かあったとしか思えねーんだ」

 実際にミリムの声を聞いているので、疑う者はいない。しかし余りにも現実離れした事態に、皆の反応も戸惑うものが多かった。

「それで、他の魔王方の反応はどのようなものなのでしょう?」

 冷静に問うたのは、やはりアルビスだ。

「フレイやクレイマンなんかは、全く信じちゃいねーな。ヴァレンタインは相変わらず音沙汰なしだし、ラミリスは新しい守護者がどうとか自慢してきて人の話を聞かねーし。ギィは我関せず、他の三名は興味なしってとこか。ま、俺とミリムが本当に戦争になれば、アイツ等も信じざるを得んだろうがな」

 各魔王達の反応は芳しくないと、カリオンは吐き捨てるように言った。

「では、戦争しかないな大将! 一番手はオレに譲ってもらうぜ!」

白虎爪ビャッコソウ〟スフィアが勢い込んで言うが、それを止めたのは〝黒豹牙コクヒョウガ〟フォビオだ。

「スフィアよ、お前は魔王ミリムの強さを知らないから、そんな気楽な事を言えるんだよ。ハッキリと言ってやるが、アレは別格だ。獣王戦士団が全員でかかったとしても、一瞬で皆殺しにされるだけだぜ……」

 血気盛んなフォビオであったが、前回の失敗を経て慎重さを身に付けていた。そのお陰で、冷静な思考による状況分析が出来るようになっている。

 そんなフォビオの判断は〝戦えば負ける〟というものだった。

「フォビオ、お前の成長は俺様も嬉しい。実際にミリムの強さを見たお前の判断だ、それを疑うような真似はしねーよ。で、そんなお前から見て、俺とミリムではどっちが強い?」

 カリオンの直球の質問に、フォビオは答えにくそうに苦痛の表情となる。しかし意を決して、カリオンの目を見た。

「失礼ながら、カリオン様。俺の見立てでは、魔王であるお二方の底を見極める事が出来ません。ですが、一言申し上げるならば、魔王ミリムは〝破壊の暴君デストロイ〟の名に恥じぬ、とだけ──」

 フォビオの答えは明言を避けたものだったが、カリオンにはその真の意味を読み取る事は容易であった。

「そうかよ、俺様より強いってか!」

 そう言って大笑いする。

「じゃあよ、この機会に貴様達にも見せてやろう。〝獅子王ビーストマスター〟の力をな!!

 魔王ミリム・ナーヴァとの戦い──これは逆にチャンスかも知れぬ、とカリオンは考えた。

 勝てると確信がある訳ではないが、強者たる自分の力を誇示するまたとない機会である、と考えたのだ。

 カリオンは己の力を過信はしていない。

 ミリムの方が恐らく強いと考えている。

 しかし──

「やっぱりよ、敵が強いからと言って逃げたんじゃあ、魔王はやってられんだろう? それに、あの伝説の魔王と戦えるなんて、こんな面白そうな話を逃す手はねーぜ!」

 血が沸き立ち、心が騒ぐ。

 絶対強者である、魔王ミリム。

 古参の魔王であり、その外見とは裏腹に誰からも畏れられている魔王。

 その魔王と戦えるのだ。興奮するなというのが、無理な相談であった。

 子供の頃、親に聞かされた事がある。

 竜の姫君の暴虐の御伽噺を。

 それがミリムの事なのか、あるいは別人の話なのか。

 その時両親に言われた言葉──


 竜皇女の逆鱗に触れると、国が滅ぶぞ!

 決して、竜皇女とは争ってはなりませんよ!


 馬鹿馬鹿しい、とカリオンは思う。

 獣王国ユーラザニアは、豊かな国土を持つ列強国である。戦闘民族らしく、国民の大半が戦士であった。

 他の魔王領に劣らぬ、軍事強国なのだ。

 まして──国主であるカリオンが魔王となり、以降の数百年間で国力は更に高まっていた。

 恐れるべき何者もいない。

 カリオンは自身の力を信じていた。

 その力を存分に奮える機会を得て、カリオンの闘志は激しく燃え上がったのである。

 同時に、カリオンは王としての冷静な判断で、一つの命令を下す。

「ミリムは俺様が相手する。そこで、だ。もしもミリムが配下を連れてきたなら、戦士団はそいつ等を相手しろ。だがミリムが一人だった場合は、全員速やかにこの国から脱出するんだぜ? 俺とミリムの戦いに巻き込まれたら、貴様達も無事では済まんからな」

「し、しかし──!?

「オレも一緒に──」

「カリオン様、我等は──」

 三獣士が口々に意見を具申しようとするのを、カリオンは一喝して制止した。

「黙れ──っい!! 魔王ミリム・ナーヴァを相手に出来るのは、この俺様だけよ!! 貴様達は、民を守る事を優先するのだ。我等の戦いに参入する事は許さん!!

 カリオンはそのまま自分の妖気オーラを解放し、大広間に集った上位魔人達を威圧した。

 その圧倒的なまでの覇気を前に、反論出来る者など存在しない。

 その場にいた者は皆一斉に跪いて、カリオンの命令に恭順する姿勢を示したのである。

「信じろ。俺様が勝つ!!

「「「うぉおおおおおおーーーー!!」」」

 大広間は歓声に包まれた。

 配下の魔人や家臣達が、カリオンを見上げて興奮している。

 それほど時を要する事なく、方針は決定した。

 この時を以って、獣王国ユーラザニアは戦時体制へと突入したのだ。


 そうと決まれば獣人達の行動は早かった。

 さっさと非戦闘員の避難が開始され、一週間という短期間の内に、国内からの退去が完了したのである。

「おう。こういう時は、あのスライムを頼るのがいいんじゃねーか?」

「それは、リムル様の事でしょうか?」

「おう、そんな名だったな。美味い酒を用意して戦勝祝賀会の準備を頼む、と伝言してくれや」

「ふふふ、それは楽しみです。それでは、住民達の避難はジュラの大森林へと向かいますね」

「ああ。任せたぜ、アルビス」

 こうして魔王カリオンの命に従い、三獣士の一人アルビスに率いられた数万の避難民が、魔国連邦テンペストへと向かう事になったのだ。

 国に残ってカリオンに従うのは、スフィアとフォビオに率いられる二十名ほどの獣王戦士団のみ。

 来るべき魔王ミリムとの決戦の日を前に、彼等はその牙を静かに研ぐ。


──そして、運命の日。

 城の背後にそびえる霊峰を見上げ、自らの力を確信するカリオン。

 そして、ミリムを迎え撃つ為に立ち上がった。

「今日こそ、俺様が最強である事を証明してやる!!

「カリオン様、御武運を!」

「ミリム様が一人なのを確認したら、俺達も安全圏に撤退します」

 フォビオとスフィアに頷き返す。

 そしてカリオンは──

「嫌いじゃなかったぜ、ミリム。いいダチになれたかも知れねーのに、残念だぜ」

 と、小さく呟いたのだった。その声が聞こえた者が、果たしていたのかどうか……。

 それはミリムの接近する飛行音に掻き消され、戦場に拡散したのだった。

 カリオンはゆっくりと〈飛行魔法〉で空に浮かぶ。

 ミリムが到着すると同時、問い掛けも口上も何もなく、戦いは始まった。

 まずは小手調べ。

 全力の拳がミリムを捉える。しかし、ミリムの身体には何かに阻まれてダメージは通らない。

 ミリムの皮膚は、物理的な干渉力さえも弾く『多重結界』に守られているのだ。

 カリオンは愛用の武器である白虎青龍戟びゃっこせいりゅうげきを召喚し、構えた。自身の力が増大するのを感じて、気分が高揚する。

 息を小さく吐き出し、妖気オーラを純粋な闘気へと練り上げるカリオン。そのまま一気に多重斬撃にてミリムを穿つ。一つ一つの斬撃から気斬が走り、ミリムへと襲い掛かった。

 しかし──

 その全ては、ミリムの表皮一枚傷つける事すら叶わなかった。気斬で『多重結界』の数層を吹き飛ばすに留まり、本体へは届かなかったのだ。

 しかも、本命の白虎青龍戟による斬撃は、ミリムの持つ魔剣〝天魔〟によって受け止められていた。少女のような小柄な体躯であるにもかかわらず、カリオンの怪力に拮抗する力で以って。

 魔剣〝天魔〟は、ミリムに不似合いな長大で婉曲した片刃の禍々しい剣だ。その刀身は、蒼白い妖気オーラに覆われている。数多あまたの魔人や魔王を屠った、伝説の魔剣なのである。

 (チィ、あの剣を抜くかよ!?

 カリオンは舌打ちして、一旦距離を取って体勢を立て直した。

 この一瞬の攻防で、カリオンはミリムへの評価を上方修正した。決して舐めていた訳ではないが、予想以上だったのだ。

 カリオンとて本気を出してはいないのだが、ミリムの底はまるで見えない。出し惜しみなどせずに、全力で相手をするべきだと直感した。

「よう、ミリム。なんでこんな真似をするんだ?」

「…………」

 カリオンの問いは、沈黙によって返される。

 ミリムの様子に違和感を覚える。意識が希薄であり、まるで操られてでもいるかの如き様子なのだ。

「ヘッ、もしかして操られてでもいるのかい? だとしたら、少し残念だな。本気のお前を倒して、この俺様が最強であると証明したかったんだがな!」

「…………」

「ダンマリかよ。もしかして本当に……? だが、関係ねーか。どっちにしろ、俺様が勝つって話だからな!!

 そう叫び、カリオンは不敵な笑みを浮かべた。

 魔王ミリムが操られるなど、の悪い冗談だ。だが、それを一笑に付せない不気味さを感じた。もしも本当にミリムが操られているのだとしたら……。

 カリオンは余りにも不気味なその様に、交渉は無駄だと判断した。

 これは紛れもなく殺し合いなのだ、と。

 カリオンは迷いなく、その力を解き放った。彼が、魔人、そして魔王へと至った過程、その段階ごと飛ばして──


獅子王ビートマスター〟という二つ名の由来通り、カリオンは獅子の獣人である。

 数多の獣人の中でも、最強の獣を宿す者。

 そんなカリオンの種族特有の固有能力『獣人化』は、魔王となった事で更なる力を獲得していた。

──ユニークスキル『百獣化』へと。

 そこに顕現したのは、獣魔の王──〝獅子王ビートマスター〟カリオン。


 獅子の威容を誇る頭部。

 象の頑強さを示す肉体。

 熊の強靭さを有した腕部は、猿の如き器用さを併せ持つ。

 そして、猫科の柔軟な脚力。

 その背には、大鷲の翼。


 あらゆる獣の長所が美しく調和し、白銀の剛毛に覆われて一体となっていた。

 その身を守るのは、伝説級レジェンドの武具である。ほんの一握りの特質級ユニークが、長き年月を経て進化した最高の武具なのだ。

 獅子の頭部に朱雀の冠が輝く。

 その腰を飾る、玄武の宝帯。

 その手に持つは、白虎青龍戟。

 それら全ての武具は、カリオンから流れ込む魔力を浴びて、本来の輝きと力を遺憾なく発揮する。

 圧倒的な力。

 変身前とは比較にもならぬ──

 これが、魔王カリオンの真なる姿なのだ。


 その姿を目にしたミリムの目に、一瞬だが、小さくきらめく光が瞬いたのをカリオンの視界が捉えた。あるいは、それは気のせいだったのかも知れないが……。

 カリオンは気にする事なくミリムに告げる。

「さて、ミリムよ。残念だがこの姿を見せた以上、お前には退場してもらうぜ? 残念だが、サヨナラだ!!

 戦いには、感傷など不要なのだ。

 そう叫ぶなりカリオンは、全身より練り上げた闘気オーラを白虎青龍戟へと集中させた。

 地上であればそのほとばしる波動を浴びて、地は裂け、周囲の物は砕かれていたであろう。

 空中に満ちる、闘気オーラざん。その残りかすのエネルギーで、空気さえも焼け爛れるようであった。

「この世から消えるがいい! 獣魔粒子咆ビースト・ロア!!

 それは、魔力で撃ち出された粒子砲。

 白虎青龍戟の先端部分は、魔粒子に還元されて跡形もない。

 地上で放っていたならば、直線上の全てのモノを跡形もなく消し飛ばす、〝獅子王ビートマスター〟カリオンの究極の必殺技であった。

 本来ならばその射程は、百メートル地点まで威力の低下が生じない。そこから徐々に威力を拡散させつつ、二キロ地点まで到達するのである。

 長射程の対多数必殺技なのだが、これを対個人向けに威力を一点集中させていた。

 獣魔粒子咆ビースト・ロアを個人に向けて使用したのは初めてであったが、これを受けて生き残れる者など存在しないとカリオンは確信している。

 出し惜しみはしなかった。

 一切の手加減も、この後の事も考えず、今出せる全ての力を込めたのだ。

 急激に身体中の魔素エネルギーの減少を感じる。飛行も覚束なくなってきた。

 しかし、それだけの代償で済んだのならば安いものなのだ。

 普通なら二発や三発撃ってもどうという事はないのだが、今回は相手が悪い。

 何しろ相手はあの、〝破壊の暴君デストロイ〟ミリム・ナーヴァなのだから。

 自身にも反動で影響が出るほどに限界まで威力を高め、極限まで範囲を狭めた最高の一撃。これならば、どんな相手でも生存は不可能──カリオンはそう信じて疑わない。

 フーーーーっと、安堵の息を吐き、地上へと降りようとして──

 慌てて回避するカリオン。背後から吹き付ける強烈な殺意を、獣の本能が嗅ぎ取ったのだ。

 その一瞬の判断がカリオンを救った。掠めた剣撃により脇腹から血が噴出したが、気合で止血する。

 慌てて振り向く。確かめるまでもないが、信じたくないという思いであった。

 そこには果たして、カリオンの予想通りの人物が浮かんでいた。

 竜の翼を広げ、その美しい桜金色プラチナピンクの髪を風に靡かせて。

 先程までなかった、額から生えた美しい紅色の角。

 素肌の露出していた衣装は、いつの間にか、漆黒の鎧へと変わっている。



 (ああ……、それが本来のお前の、戦闘形態って訳かい──)

 自分は魔力切れ寸前なのに、相手は無傷。カリオンの不屈の闘志も、ここにきて絶望の色に染まる。

 (冗談じゃねーぞ、アレをくらって無傷だと!? 勘弁してくれよ、まったく……)

 そんな、泣きたいのに笑いたくなるような、不思議な気分になっていたのだ。

「わはは。やるな、面白かったぞ。左手が痺れたのは久しぶりなのだ。お礼に、取って置きを見せてやる」

 この戦闘で初めて、ミリムから語りかけて来た。

 棒読みのような口調に疑問を持ったが、その言葉から感じる危険な予感が、カリオンにそれを気にする余裕を与えない。

 正直、見たくない。心からそう思った。

 この場に配下の者がいないのは幸いだった。住民の避難も終えているので、町を気にする必要もない。

 カリオンは、全速力でその場からの逃亡を考える。

 本能が告げていた。あの場に残れば、死ぬ、と。


 竜の瞳孔を見開き、竜の翼を大きく広げて。

 ミリムが咆哮した!


竜星爆炎覇ドラゴ・ノヴァ!!


 それは星の煌きを彷彿とさせる、淡く美しい輝き。

 その光が降り注ぎ、城だけではなくそのふもとに広がる町並みが、音もなく、消滅する。

 人の可聴域などアッサリと振り切り、その音と衝撃波だけで、目に映る広範囲を破壊し尽くしたのだ。

 光の直撃を受けたモノは、如何なる抵抗も許されず、ただ崩壊するのみである。

 究極にして最強の魔法。

 魔王ミリムが長年の戦いにおいて、常にその頂点に君臨し続けて来た理由の一つであった。


 (ありえねーだろうが!!

 カリオンは辛うじて、ミリムより上方に逃げる事に成功していた。幸いな事に、竜星爆炎覇ドラゴ・ノヴァがミリムを起点とした前方指向性の攻撃であった事が、その命を救ったのだ。

 そしてその眼下に広がる光景に、カリオンは言葉を失い絶句する。

 自然と調和する素朴な石造りの町並みが、綺麗に消え去っていたからだ。

 あれが、〝破壊の暴君デストロイ〟ミリム・ナーヴァ。

 絶対に敵対してはいけないといわれる、魔王。

 今のカリオンならば、両親の言葉に素直に頷ける。

 アレは駄目だ。次元が違い過ぎる。

 しかし──

「だがアイツ、ひょっとして……」

「ひょっとして? あら、何かしら? 私にも教えて欲しいわね」

 カリオンは首筋に、薄い刃物が触れるのを感じた。

 背後に音もなく飛翔する、一人の女性の気配。

 天空においてその絶対的支配権を持つ魔王──〝天空女王スカイクイーン〟フレイ。

 ミリムの隠す気のない圧倒的な妖気オーラが、フレイが気配を殺して接近するのを隠す目的だったのだと、その時カリオンはようやく悟ったのである。

「チッ、フレイ……。お前もかよ……!?

「あら、私もなんなのかしら? ゆっくりと聞かせて欲しいわね」

 フレイの手が動き、そして、カリオンの意識は闇に包まれた──


 獣王国ユーラザニアにとって、最悪の日。

 その日は後の獣人族ライカンスロープの歴史において、滅びの日と呼ばれる事になる。