0 プロローグ


 ビル群を見上げた先には、青空が広がっていた。

 最近、こんなにゆっくりと空を見ることがあっただろうか?

 そんなことを思いながら、焼けるような痛みがする自分の左胸を震える右手で押さえた。

 痛みは消えることがなかった。それでも温かみのある体温が、まだ俺が生きていると実感させてくれていた。

 だけど時は止まることを許さず、痛みの次に今度は視覚を奪い去るように、世界を霞ませていく。

 それでも、俺はこの現実を受け入れる気にはならなかった。

 目標を立てて、そこに突き進み乗り越えることで、人は成長する。

 そんな、昔ある人に教えてもらった言葉を思い出した。

「目標が……叶うところまで来たんだ。それを……一度の不運で諦めて……たまるか」

 声を出したことで、先程まで感じていた焼けるような痛みが消えていく。

「昇進する……までは、こんなところで……死ぬ訳にはいかない……」

 視界は霞んだままだけど、きっと痛みがなくなったのなら助かるはずだ。

 青空は霞んでしまったままだけど、きっと大丈夫だ。

 こういう危機ピンチの時こそ笑って乗り越える。

 今までもそうしてきたように、これからもそうしてみせる。

 そう決意して、まずは立ち上がろうとした瞬間──意識はそこで途切れた──。


 そして次に意識が戻った時、何故か真っ白な空間にいた。

 直ぐにこの状況を理解することは出来なかったが、少し時間を置くことで、脳裏にある言葉が浮かんだ。

 転生だ。

 何故ならば、学生の頃によく読んでいたライトノベルに、この状況と酷似していた内容があったからだ。

 常識的に考えれば、状況の類似性とはなんら関係はないのだが、社会人になって以来封印してきた、オタクな感性が溢れ出てしまう。

 しかし転生というなら、俺は死んだということになるが、その実感はまるでなかった。

 だから俺は何故この白い空間にいるのか、自分の今日の行動を思い返してみることにした。


 俺は中小企業のオフィスソリューションを担当する……簡単に言えば主にOA機器を販売する営業だった。

 アラサーと呼ばれる年齢から、つい先日、本当に三十歳を迎えた俺はコツコツやってきた仕事の成果が出始めていた。

「最近調子がいいようだな。あと一本取れば予算達成、お前も補佐が取れて課長か。部下の数字ばっかり手伝って、予算のクリアはないと思ってたんだけどな」

「あ、部長。実は営業先でさっき契約をお願いしたら、契約をいただけることになったんですよ。昇進したら奢ってくださいね」

「……財布の紐を握られている私に普通たかるか? まぁ仕方ないな。行って来い」

「はい」

 部長の奥さんは怖い人だが、実は元々俺の同期だったこともあり、部長が飲みに行く時は必ず俺に連絡が来たりする。

 俺は晴れやかな気持ちでエレベーターを待っていた。

 営業先で契約書をもらい、納入時期が月内であれば、昇進が確定することになる。

 今回の昇進には俺にとって二つの大きな意味があるのだ。

 一つは、目標にしていた人に追いつくことが出来ること。

部署は違うけど、俺にはずっと目指していた人物がいた。

 その人に追いつき追い越すことが、入社した時からの目標だった。

 もう一つは、その目標を一度見失ってしまった時に、俺を支えてくれた彼女に告白する為だ。

 彼女と仲良くなるにつれ、俺は見失った目標に再び走り出していた。

 だから笑顔の似合うその彼女に、昇進したら告白することにしていた。

 そして、ようやく目標に追いつくところまで来ていたのだ。


「納期ですが、来週の水曜日になります。社長、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ。ああそうだ、商品を納品する水曜日にも顔を出すんだろ?」

 親しみを感じさせるこの社長とは長い付き合いだ。

 新人時代からお世話になっている。

「勿論です」

 社長のおかげで昇進出来るのだから、当然来ることを伝える。

 俺はニッコリと笑いながら頷き答えた。

「そうか。じゃあ来週、一応来る前に連絡を携帯に入れてもらえる?」

「承知しました。それではまた水曜にご連絡させていただきます」

「ああ。頼む」

 その会話を最後に営業の俺は社長室を後にした。

「よし。これで今月もノルマ達成したぞ。これで昇進だ!!

 誰にも聞こえない声で、俺はテンションを上げて呟く。

 半年の個人予算を達成した俺はようやく、課長補佐から課長への昇進が確定したのだ。

 この嬉しさを伝える人も決まっている。

 今なら人目があっても、スキップしろと言われればしてしまうだろう。

 そんな絶好の気分だった。

 この幸せな時間が、乗り込んだエレベーターのように、急激に不幸へと下降し加速していくとも知らずに。

 エレベーターを降り、ビルの出口に向かって歩き出した途中で、ふと自分の革靴の紐が解けていることに気がついた。

「今日は朝から靴紐がよく解けるな」

 俺は靴紐をしっかりと結び直す。

 ああ、このまま帰社して、皆から祝福を受けたいな。

 そんなことが出来たら良いなと思いながらも、次の商談先へ向かうためビルを出ると、いきなりパァーンと大きな乾いた音が俺の耳に響いた。

「うぉ!!

 条件反射なのか、驚きのあまり腰が抜けてしまったのか、俺は地面に膝を突いてしまった。

「俺ってそんなビビリなのか?」

 無理に笑おうとすると、左胸に鋭く焼けるような痛みが走った。

「おいおい。さっきの音で吃驚したからって、心臓とか、禁煙した俺にもっと優しくしてくれてもいいんじゃないのか?」

 まだ胸の痛みはあるが、それよりも俺は周りの目もあるので、少しでもスマートに行動して、この場から離れようとしていた。

「あ~あ、これって絶対に膝が汚れちゃっただろうな」

 俺は呟きながら立ち上がろうとした……が、何故か全く足に力が入らなかった。

「ぎっくり腰? でも痛みはないのに」

 やけに自分の呼吸の音が耳に残る。

 そして俺はここで周りを見てしまった。

「救急車、救急車!」

 そうこちらを見て叫んでいる声を、耳が捉えてた。

 何だ? もしかしてさっきの音って……ああ、なるほど。あれは本当に銃声だったのか。

 俺はようやく自分の状況を察した。

 それと同時にだんだん身体が冷たくなっていくのを感じた。

「でも、俺は昇進する男だぜ? 今まで頑張ってきたんだ、だから俺はこんなところで死なんぞ!」

 俺は己を奮い立たせて空を見上げた。

 ビル群を見上げた先には、青空が広がっていた。

 胸が焼けるように熱く、全てが霞むようになっても、俺はこの現実を受け入れる気にはならなかった。

「目標を立て、そこに突き進み乗り越えることで、人は成長するんですよね? だったら俺は生きて昇進するよ先輩」

 さっきまで熱かった身体は急激に冷え、痛みも消えてきた。

 絶対に生きて、先輩に追いつき、いつか追い越すって決めてるんで──。



「俺はこんなところで死にませんよって、格好つけたのはいいが、死んだのか? いきなり目が覚めたのが、この白い空間だから……やっぱり死んだのか」

 自分に言い聞かせる度に心が重くなっていく。

 しかし、いつまでも落ち込んでいられないと、状況の確認を始める。

 真っ先に気がついたことは、スーツを着ていたはずなのに、見慣れない服を着ていたことだ。

 いつの時代? そう首を傾げたくなるような、ごわっとしたそんな造りの服を着ている。

 それと撃たれた傷は完全に消えていた。様々なことが頭に浮かんでは、必死にそれを打ち消し他の可能性を探る。

 俺は混乱しながらも思考を止めずに考え続ける。

 ここは一体どこなのか? どんな場所なのか? そしてこの服は一体誰が着せたのか? その答えは脳に直接語り掛けてくる声が直ぐに教えてくれた。


《不運な魂よ 転生させてやろう》


「元の世界に戻してくれませんか?」

 俺は頭に響いた声に反応して、ノータイムで返答した。


《既に死んだ肉体がある世界には戻せない》


「……それでは、どんな世界に転生するのでしょうか?」

 願わくは、安全な世界でありますよう。

 俺は祈りを捧げる。


《ガルダルディアという名の惑星 地球と同じ水と大地の惑星だ》


「それでは今の世界と一緒ですか?」

 俺は恐る恐る尋ねた。

 もし地球と同じ文明なら、日本並みの安全な場所……日本より安全であることを更に祈る。

 しかし、現実は無常だ。

 頭に響く声は、定番の世界を選択していた。


《魔法があり 魔物がいる そんな世界だ》


 魔法があって魔物がいるということは、完全にファンタジーの世界ということだろう。

 そこまで考えて、俺の思いを伝えることにした。

「確かに日本では馴染みのある世界でしょう。小説やアニメ、ゲームがあるので、昔からそういう世界は知っていました。若い頃は多少なりとも、行ってみたいと思ったこともあります。しかしの私はいい歳をした大人です。そんな私は冒険を楽しめないと思うのです」


《不運な魂よ お前の話はどうでも良い 同じ境遇の魂があと九つあるのだ 駄々を捏ねるならこのまま転生させるぞ それが嫌なら説明を聞け》


 その脅しの言葉は抑揚がなく、とても無機質な声だった。

 それが頭に響いた時点で、俺は頭を下げていた。

「すみませんでした。お願いします」

 神様? が脅してくるなんて想定外の事態に、俺はどうしたら異世界で生き延びれるか、それだけを考えることにシフトチェンジした。


《不運な魂よ 転生するのは 汝が思い描いている世界だ そこへ転生させる こちらで何も干渉はしない 生きたければ ステータス オープンと念じ ステータスを開け》


 俺は謎の声に従い迷わずに念じる。

 『ステータス オープン』


 名 前:設定されていません。

 ジョブ:設定されていません。

 年 齢:15

 レベル:1

 HP(生命値):200 MP(魔力値):50

 STR(筋力):20 VIT(耐久力):20 DEX(器用さ):20 AGI(素早さ):20

 INT(知力、理解力):20 MGI(魔力):20 RMG(耐魔):20

 SP(スキル、ステータスポイント):100

 【スキル】

 なし

 【称号】

 なし


「まるでゲームじゃないか。ははっ」

 俺は力なく笑うしかなかった。

 何もなかった俺の目の前に、突如ホログラムウインドウが出現したのだ。

 そこにはまるでゲームやアニメの世界に飛び込んだみたいな感覚で、自分のステータスらしきものが表示されているのだ。

 俺は嬉しくなるよりも怖くて、震えてくる。

 リスポーンのないファンタジー世界で、生きる残るのは相当難しいだろう。

「完全なファンタジーだ……あれ? 年齢が若返っている? これはサービスなのか?」

 とにかく、今は情報を得ることが最優先だ。

「この気持ちの切り替えだけは、営業していて身に付いたものだな」

 俺はそう呟いてから、この状況から前に進む為に腹を括った。


《設定のリミットは一時間だ 種族 年齢は決めさせてもらった 残りは自分で決めるがいい 名前のみで家名はない ガルダルディアの基礎知識を頭に送ろう これから一時間後 お前はガルダルディアに自動転送させる 不運な魂よ 次の人生が幸福であるように願っている》


 ピロン。そんな音が頭の中で鳴った気がした後に、先程とは違う機械的なアナウンスが頭に響く。


 【運命神の加護(SP取得量増加)を獲得しました】


「あ、ありがとう御座いぅぅうぎゃあああああ」

 機械音が頭に響き、俺がお礼を言おうとした瞬間、脳の許容範囲を超える様々な知識が一気に頭へと植えつけられる感覚がし、激痛に襲われた。

 その痛みは尋常ではなく、鈍器で頭を殴られたような鈍い痛みだった。

 それはおよそ一分弱続いた。体感的にはもっと長い時間を転げ回った気がしたが、ステータス内にあるタイムリミットを示した時計には、残り時間が五十九分七秒と提示されていた。

「はぁ、はぁ、はぁ。今の痛みは尋常じゃなかったぞ」

 鈍い痛みの後は、無理矢理尖った何かで脳を穿り返されるような苦痛を味わった。

「……今の痛みで得たのがこの基礎知識か。頭はまだ痛むけど、時間がないからどんどん進めるか」

 俺が得た知識はガルダルディアの現存する国、種族、大陸共通の言語と識字能力、貨幣価値だった。

 俺は一度深呼吸をして精神を落ち着かせてからウインドウを見ると、ゲームのようにキャラクタークリエイトが出来るようになっていた。

「絶対にゲームやアニメからインスパイアされてるだろ」

 俺はそう呟きながらも、キャラクタークリエイトを続行する。

 どうやらゲームのように姿かたちを変えられるようだ。

 初期アバターは、俺の顔が欧州人になったように、彫りが深く茶色の髪に緑の目をしていた。

「さてと、まず名前は……あれ名前が思い出せない? 何故だ?」

 疑問を抱いたところで答えが返ってくるハズもなく、仕方がないので昔ゲームで使用していたルシエルというキャラ名を使うことにした。異世界でも違和感がなさそうだからだ。

 身長は十センチ伸ばして百八十センチにして、髪の色は茶から銀にして、瞳は……緑から薄い紫にする。

 もらった知識では銀髪も紫の瞳も珍しくないようなので、一番に似合う色を選択した。

 少しだけ厨二臭いが、これでいいだろう。

 残り時間は五十三分か。

 知識として物価や名産などがわかれば良かったが、話すことや読み書きも出来ることだけでも感謝しておこう。

 成人が十五歳なら直ぐに仕事を見つけられる。

 最初は苦労するだろうが、いずれ安全な暮らしを手に入れるぞ。

 それよりもこれが本当は全部夢ならいいのに……。

「いかん。俺が転送される場所は……ランダムか。平原、森、迷宮で比較的町に近い場所。但し運に左右されるんだな。スキルにはレベルがあるものとないものがあって、あるものは最高がⅩか。スキル取得はSPスキルポイントを使っての取得か努力で取得可能……か」

 俺は座って、生き残る為に最善のスキルを思考し始める。

 スキルと一言でいってもその数は膨大で、予測がつかないものは運の要素が強い。

 スキルは『攻撃』『防御』『魔法』『補助』『生産』『生活』『研究』、『テイマー』があるのか。

 目の前のステータス画面を触りながら設定の穴を探すが、検索システムはないし隠し画面もない。

 地道に探すしかないらしい。

 まずは運だな。これは別に博打に限ったことではない。

 仕事でも担当の顧客を掴むのは相性だけでなく、運も必要になる。

 そもそも運が悪ければ、俺みたいに撃たれて、人生が急に終わってしまうこともあるしな。

 そう思いながら必要そうなスキルのSPを計算していく。

 『補助』から『能力値』を選び、更に『運』を選択すると『幸運』『強運』『激運』『豪運』『悪運』『覇運』『天運』といった項目が出てきた。

 『覇運』は習得するのに百ポイント必要で『天運』に関しては、五百ポイントと問題外だった。

 ここはとりあえず『強運』十ポイントを候補に入れておく。

 次に必要なのは魔法だな。

 異世界に行った時に魔法が使えなければ、労働基準法もない場所で肉体労働が待っている。

 そんなことをして成功出来るのは、物語の主人公や武術の天才だけだ。

 『魔法』カテゴリーの『魔法属性』を選択すると、表示されたのは光、聖、火、水、風、土、雷、闇、時空間の全九属性だった。

 取得に必要なSPは四属性が十ポイント、聖二十ポイント、雷三十ポイント、光と闇が五十ポイント、時空間は百ポイントだった。

 更に魔法を使うのに必要そうな要素があり、『魔法』から『詠唱』を選択すると、『詠唱短縮』『詠唱破棄』『無詠唱』『魔法陣詠唱』が出てきた。

 しかしSPが足りない。これは非常に不味い。

 俺が取得する魔法属性は『回復魔法』と『補助魔法』が使用可能な聖属性にすることを決めた。

 毎回コツコツ修錬を積んでいけば、やがて魔法能力も向上して人の役に立てるだろう。そうなれば安全な職に就くことも可能だと考えたからだ。

 その為には二十ポイントが取得するのに必要となる。

 そうなると『詠唱破棄』に二十ポイント、『無詠唱』に三十ポイント、『魔法陣詠唱』三十ポイントと、それぞれにSPを使うと、それだけで百ポイントになってしまう。

 他のスキルはというと、『生活』を選択すると『料理』などが並んでいるし、『生産』を選択すると『鍛冶』などありふれたスキルのみだった。

 攻撃スキルに関しても特別なスキルはなかった。

 しかしこの選択には落とし穴がある。例えばスキルを選んでも武器がない可能性だ。

 どこからスタートするかわからないが、剣を持っていなければ『剣術』スキルは意味がない。

 そこまで考えてから俺は無難な『体術』スキルを五ポイントで取得することにした。

 ……この白い空間で、戦闘スキルだけを取って自分の能力を上げる。

 そんな奴は長くは生き残れなさそうだな。

 そんなことを考えながら文章を読み、抜け道や強奪系、コピー系のスキルを探したがなかったので、迷いながらも何度も脳内シミュレーションを重ねてからスキルを取得した。

 取得したのは『熟練度鑑定』二十ポイント、『体術』五ポイント、『豪運』五十ポイント、『聖魔法属性』二十ポイント、『魔力制御』五ポイントだ。

 『熟練度鑑定』はスキルを上げるのに効果的な方法を探る為、『体術』はどこに落とされても対処出来るように、『豪運』を選択したのは今の俺に足りていないものだと判断したから『強運』はやめてこちらにした。

 『聖魔法属性』と『魔力制御』は説明書きを読んで決めた。

 全て決めて残り時間はあと十八分と表示されていた。

 不備がないか見返していると、ジョブの選択肢に目がいく。

 触ってみるとある画面が表示された。


 〔ジョブを設定してください〕


 そう書かれた下に様々なジョブが載っていた。

「これって自分で設定しないといけなかったんだな。見直さないといけないとか、完全にトラップじゃないか」

 俺はここでまた深呼吸を行い、ジョブ一覧を見ていくことにした。

 剣士、魔法使い、治癒士、盗賊、商人……色々あった中で、治癒士を選択した。

 剣士や魔法使いを選んだ方が良かったかもしれない。

 ただ回復魔法は魔法使いでは使えないかもしれないし、魔法そのものを習得することが出来ない可能性もあるので、念には念を入れたのだ。

 残り九分四十二秒。完了ボタンを押す前に各スキルを見直し、努力で取れそうなスキルを頭に入れながら見ていく。

 残り三分強で完了を選択すると、一瞬で真っ白な世界が変わる。

 そしてこの世界の貨幣である銀貨を、三枚握り締めた状態で俺は草原に立っていた。

「……まさかの時は金なりですか?」

 俺は空を見上げて呟いた。

 見渡す限り本当にそこは何もなく、遠くまで見通すことの出来るそんな草原だった。

 残り時間と手に入れたスキルの相関関係に思いを巡らせながら、辺りを眺める。

 すると結構な距離はありそうだが、遠くに街の外壁のようなものが見えた。

 そして昂ぶった精神を落ち着ける為、ゆっくりと深呼吸した。

 この距離から見てあの大きさであれば、かなり大きな街かもしれない。

 俺は街っぽいものがしっかり見えたことに安堵しつつ、周囲を警戒しながら街へ向けて進むことにした。



《これで十の魂を送った 約束は守ったぞ》


《確かに これで少しは世界が変われば面白いのですがねぇ》


《凡庸な魂しか送っておらん 余程適応能力が高い者でなければ 暮らすこともままならず 困難な状況に陥るだろう》


《まぁ私も貴方も干渉は出来ませんので もらった魂を眺めるだけ眺めて 彼等が死んだらまた賭けか 交換を致しましょう》


《……気が向けばな ではな》


 一つの光が消えた。


《あ~今回は面白くならないかなぁ》


 そう呟くともう一つの光も消えた。


 運命の神が、異界の主神に、男の魂を含んだ十の魂を渡した。

 運命の神は、異界の主神と賭けをして負け、凡庸で危険な思想がない十の魂を譲渡した。

 最初の男の魂にのみ、運命神は加護を与えた。

 ルシエルとなった男は死ぬ運命だったが、死にたくないという強固な意志の強さが、死に抵抗して現世に一分も長くしがみついた。

 運がいいのか悪いのか、そのことにより十の魂に選ばれたのだ。

 だから運命の神は男に加護を渡した。その行く末を見守れるようにしてから、異界の神に魂を渡したのだ。

 これがどういう結果をもたらすかは、運命神も異界の神もわからない。

 こうして地球からルシエルとして生まれ変わる魂を含めた十の魂が、ガルダルディアに転生するのであった。


 名 前:ルシエル

 ジョブ:治癒士

 年 齢:15

 レベル:1

 H P:200 M P:50

 STR:20   VIT:20 DEX:20 AGI:20

 INT:20   MGI:20 RMG:20 S P:0

 魔法属性:聖

 【スキル】

 『熟練度鑑定』Ⅰ 『豪運』Ⅰ 『体術』Ⅰ 『魔力制御』Ⅰ

 【称号】

 運命を変えたもの(全ステータス+10

 運命神の加護(SP取得量増加)