1章 新たな異変
コボルトの大量発生により引き起こされた大討伐。その軍団の頭であるコボルトロードを撃破し、俺達は大討伐を終わらせた。そして共に戦ったディウス達とは祝勝会を挙げ、無事に戦いが終わったことを大いに喜び合った。
騒ぎ終え彼らと別れて、俺達は宿へ帰ろうとしたのだが……その道中でスマホに【大討伐達成報酬、魔石五十個、SSRコストダウン】、【初大討伐達成記念! アイテムガチャ開催!】という素晴らしき二つの通知が。
それを見た俺は、ノール達を急かしてすぐに宿へ向かうのだった。
「うひょー、ガチャだぞガチャ! ガチャが来たぞ!」
借りている部屋に入った途端、俺は嬉しさのあまり声を上げた。
まさか大討伐を達成したことで報酬が貰え、さらにガチャのイベントまで開催されるとは……どういう原理なのか疑問は残るけど、新しいガチャに心が震えてそれどころじゃねぇ!
「大討伐を終えたばかりだというのに、大倉殿は元気でありますね」
「お兄さんだから仕方ないわよ。でも少しは落ち着いたらどうかしら」
「本当にガチャがお好きなんですね」
一人騒ぐ俺を見ながら、ノール達が呆れたご様子。す、少しはしゃぎ過ぎたか……でも本当に嬉しいんだから仕方ない。
「それにしてもいきなりガチャが来るなんて、タイミング的に大討伐が関係あるのかしら?」
「どこで終わりだって判断されたのかわからないけど、大討伐達成記念とか書いてあったからそうだろうな。そういえば通知と一緒にアイテムも送られてきていたな」
アイテムガチャ以外にも、魔石五十個とSSRのアイテムを貰っていたはずだ。さっそくアイテム欄を開いて、貰ったアイテムを確認してみた。
【SSRコストダウン】
使用したユニットのコストを一下げる。
使い切りなので選択は慎重に。
「へぇー、私達のコストが下がるのでありますか」
「能力とかが変わる物ではないんですね」
「でもコストが下がるのなら、沢山集めれば他の子も召喚しやすくなりそうだわ」
コストが一下がるのは魅力的なアイテムだと思うけど、それが一つだけじゃありがたみが薄い。複数手に入るのなら長期的に見たらいい物だが、入手方法が大討伐のみとかだと数をそろえるのは厳しそうだ。他にも入手方法があるなら有用そうだが……。
「この世界で大討伐のようなイベントを達成すれば、アイテムが貰えるってことなのか?」
「えっ、また大討伐をやるんですか!」
「やらねーよ!」
大討伐と聞いてシスハは喜んだ声を上げた。いや、そこは喜ぶところではないと思うんだが。
それにしても魔物を倒したら魔石がスマホに入るように、この世界で何か条件を満たせば魔石以外の物も手に入ったりするのか?
例えば迷宮なんかはあからさま過ぎるぐらい何かありそうだし、あそこも制覇したら何か貰えそうだ。迷宮以外にもそういう場所やイベントがないか、探してみるのもいいかもしれない。
「お兄さん、お兄さん」
「ん? どうかした?」
「そのコストダウンは誰に使うの?」
エステルは自分自身を指差して、自分に使ってくれと主張するように聞いてくる。
うーむ、彼女に使ってもいいのだが……ノールはバフ、エステルとシスハは支援魔法持ちなので、今後仲間が増えたとしてもパーティから外れることはまずないだろう。
しかし、貴重なコスト低下のアイテムだ。もう少し貯めてから考えて使いたい気もする。
……うん、今後どうなるかもわからないし、ここは温存だな。
「期待しているところ申し訳ないが、今はまだ使わないぞ」
「むぅー、お兄さんのケチ」
「まあまあ、そんなムッとしないで落ち着くでありますよー」
「ムッとしてなんかいないわ。そんな気にしていないもの」
エステルは拗ねたように口を尖らせて頬を膨らませている。
それで気にしてないと言うのは無理があるんじゃ……。
能力が向上する訳でもないのに、どうして使ってもらいたそうなんだ? うーむ、よくわからない。
「それよりガチャをどうするかだな」
「今回は……アイテムガチャですか?」
開催されたガチャの詳細を確認すると、【アイテム系の排出率UP!】と表示されていた。どうやら今回はアイテムガチャみたいだ。
アイテム系の排出率アップねぇ……。SSR以上の排出率がアップする訳じゃないし、正直スルーしても構わないガチャだな。
だけど最近は四人になって、ガチャ産の【食料】が不足しているからやること自体は意味がある。【魔法のカーペット】のように便利なアイテムが出る可能性もあるけど、必死になって回すほどでもないか。優先するならやっぱり装備とユニットだ。
でも、今は魔石が八百四十六個あるので、四人で一回ずつ回して二百個程度の消費ならいいだろう。
それにしても大討伐凄いわ。あの短期間で百十個以上の魔石が手に入った。あの時希少種もそれなりにいたみたいだな。
「それじゃあ平八カーニバル……と言いたいところだけど、今回は全員一回ずつにしておくか」
「またカーニバルしないのでありますか!?」
「お兄さんの何回までって言うの、信用できないわね……」
「えっ! 私にもガチャをやらせてもらえるのですか!」
ノールはカーニバルじゃないことに驚き、エステルは俺のことを信用せず、シスハはガチャ自体を喜んでいる。
三者三様の反応だ。
このガチャでは俺の射幸心は満たされない。なので、カーニバルと認める訳にはいかない。
通知を見た時は絶頂に達するほどの感謝を覚えたが、今は萎えてしまった。まるで気力が湧かない。
「それじゃあ、今回はシスハから引いてもらおうか」
「はい! はぁー、これがガチャなんですね。ワクワクしてきますよ」
まずは目を輝かせて鼻息が荒くなっているシスハにやらせることにした。
いつものようにベッドに座る訳にはいかないので、机を囲んで椅子に座り、中央にスマホを置いてガチャる。
モフットはノールの膝に座っていた。数日宿にいなかったので、ノールがモフットに構いまくったせいか少し疲れ気味だ。
シスハは初めて触るスマホに慎重に指を置き、十一連ガチャをタップ。画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。
【R食料、SRハイポーション、Rポーション×10、Rおやつ、SR高級ランプ、R万能薬、SRビーコン、R栄養剤、R寝袋、SRエクスカリバール、Rキャンプセット】
シスハの初めてのガチャ、その場の雰囲気はなんとも言えないものとなった。彼女は無言で画面を見つめて止まっている。エステルとノールはどう反応していいのかわからず、互いに顔を見合わせ固まっていた。
あちゃー、初陣がまさかのSR止まりか。初回の一回でいいのが出ないと結構気落ちするからなぁ。でもガチャなんてそんなものだし、次の機会に頑張ってもらいたい。
せめて慰めの言葉でも贈ってやろうかと思っていたのだが、無言のままシスハの手がまた十一連ガチャへと向かっていた。
「ちょっと待て! 何もう一回やろうとしてるんだ!」
「うわああぁぁ! 離してください! 私の初めてがこんな幕引きだなんて、そんなのあんまりじゃないですか! 先っちょだけ、先っちょだけ指を当てるだけですよ!」
「な、何やってるんでありますか、お二人共!」
「もう、シスハまでガチャで騒ぐタイプだったのかしら」
シスハが画面を触る前に腕を掴み、ガチャるのを止めた。それでも彼女は俺の手から逃げようとするので、エステルとノールにも手伝ってもらい椅子にロープで縛り付ける。ロープは前に迷宮へ行く時に準備した物だ。まさかこんなところで使うなんてな……。
それにしても、なんて奴だ。この俺ですら予想外だぞ。最初に決めた回数を守らないなんて、忍耐力がなさ過ぎる。俺のようにちゃんと理性的に自制できないのか!
「ふぅ、全く。まさかもう一回やろうとしやがるなんて。油断も隙もあったもんじゃないな」
「大倉殿が言えることじゃないと思うのでありますが……」
「シスハもお兄さんにだけは言われたくないと思うわよ」
「うぅ……一回だけなんてあんまりですよ……」
エステルがジト目で俺の方を見ている。ノールも同じように俺を見ているが、アイマスクで表情がわからない。何だ、なぜそんな目で俺を見るんだ。俺がまるで変なこと言ったみたいじゃないか。
椅子に縛り付けられたシスハはうなだれながら呟いている。容姿のせいかその光景は俺がいけないことをしているように見えてきたが、同情の余地はない。約束を破り追加でガチャをしようとした者に情けは無用だ。
「それじゃあ、次は私かしら」
一騒ぎ終え、今度はエステルの番。少し嬉しそうに微笑んで彼女はスマホを操作している。
うむうむ、ガチャを喜んでいるのは良い傾向だ。エステルもだんだんとガチャに染まってきているな。
画面に宝箱が映し出される。
【SR高級枕、R食料、SRエクスカリバール、SR高級包丁、R万能薬、SR高級ライト、R弁当箱、SR洗浄機、R寝袋、SRエアーロープ、Rぬいぐるみ】
「むぅー」
「あまり良くない出だしでありますね」
二人続けてのSR排出のみ。やはり確率アップがないとSSRですら出にくそうだな……。
エステルは悔しそうに頬を膨らませながら、両手を握りこぶしにして震えている。写真に保存しておきたい可愛さだが、今は机の上だし音が出るからやめておこう。
次はノールの番だ。
「大倉殿……単発で十回やってみてもいいでありますか?」
「ん? いいぞ」
「ありがとうございます、なのでありますよ!」
ほぉ、まさかノールからそんな言葉が出るなんて。最初にエステルを出した時は単発だったし、単発教にでも入信したのか。
うむ、こちらもまた良い傾向だ。これからどんどん彼女達には、ガチャ沼に沈んでほしい。そうすれば俺の気持ちも理解してくれるはずだ。俺の返事を聞いたノールは、嬉しそうに単発ガチャを連打していく。
【R食料】【R万能薬】【SRビーコン】【SRハイポーション×10】【Rおやつ】【SSRハウス・エクステンション】【R万能薬】【SR鍋の蓋】【Rランプ】【SR調味料セット】
ノールが次々と単発ガチャを回し宝箱からポンポン排出された。結果は銀が五個、金が四個、そして白が一個だ。
「あう……SSRが一つなのであります」
「一つ出てるだけでも十分じゃないですか!」
まさか、またノールだけSSRを出すというのか……こいつの運は一体どうなっているんだ。
彼女はちょっと落ち込んでいるが、SSRが出ただけでも喜ばしい。ちょっと毒され始めているようだな。いいぞ!
それよりも【ハウス・エクステンション】。これは何だろうか。SSRのアイテムということは、魔法のカーペット並みに便利そうだが……。
「それじゃあ次は……モフットでありますか?」
「あ、ああ……いいぞ」
ノールが、膝の上に座っていたモフットを机の上に持ち上げる。モフットは理解しているのかスマホの前までテクテクと歩いていく。四人だと思っていたけど、考えたら四人と一匹だったな……二百五十個の消費ならいいか。
「その子もガチャを回すのですね」
「あら、知らなかったの? シスハを出したのはモフットなのよ」
「えっ」
テクテク歩いていたモフットを眺めながら、ふとシスハが呟く。そういえばモフットが召喚石を出したってことは言ってなかったな。普通に撫でて可愛がっていたから、もう知っていると思っていたよ。
自分を出したのはモフットだという事実を知ったシスハは、短く声を漏らしモフットを見つめている。ウサギに排出してもらったということを知った心境は複雑そうだ。
スマホに辿り着いたモフットが、前足を十一連の部分にポンと乗せタップする。本当にこいつは賢いな。
画面に宝箱が映し出される。
【SR高級アイマスク、Rシャンプー、Rポーション×10、R眠り薬、R栄養剤、Rアニマルビデオ、SR警報機、Rマスク、SR夢見の枕、Rおやつ、R釣竿】
幸運をもたらすと言われているモフットを投入しても、SSRの壁は高かったか。ちょっとだけUR出るんじゃないかと考えはしたが、ガチャは厳しかったようだ。
「あぅ……モフットの力をもってしても駄目なのでありますね」
「今まで何だかんだでURが出ていたからな。まあ、今回も俺が出してやるから安心するといい」
「お兄さん、そうやって自分からフラグを立てるのやめた方がいいと思うわよ」
「そこまで自信満々に言うなんて、私期待しちゃいますよ?」
ふっ、この俺の運命力をもってすれば、今回だってURが排出されるのは道理。UR以外はありえないのだ。まっ、危惧していることをあえて言うのなら、同じURが出ることぐらいかな。
俺の力強い指先がスマホの画面へ触れる。そして出現するは宝箱。
【SRエクスカリバール、SR鍋の蓋、Rリンス、R香水、Rゴム、R薄い本、SR録画アプリ、SR腕カバー、R食料、SRペット小屋、SR高級ライト】
……馬鹿な、そんな馬鹿な! URが出ないだけならまだ納得するが、俺の運命力をもってしてもSSRが出ないだと!?
「ほら、やっぱりこうなるのね」
「大倉殿、もう引いちゃ駄目でありますからね」
「さっき私を止めたのですから、まさかもう一回やりたいなんて言わないですよね?」
エステルは頬に手を当てふぅ、と息をつく。ノールは何かを警戒しているのか、異様に俺の動きを見ているみたいだ。
シスハは椅子に縛り付けられたまま、笑顔で俺に声をかけてくる。その笑顔からは、お前まさか自分だけ引く気じゃないよな? という副音声が聞こえる気がした。
「ぐっ……そうだな。確かに俺はシスハがもう一回引くのを止めた。俺が最初に皆一回ずつにしようって言ったからな。だが、そういうことなら皆でもう一回引けばいいのではないだろうか? ここまでSSRが一個しか出ていないんだ、次はSSR以上が複数出てもおかしくないだろう? だから、今から俺が引くのも問題ないと思うんだ」
「なるほど、その発想はありませんでした! それなら私も大歓迎です!」
「その理屈はおかしいのでありますよ!」
「シスハもガチャをやらせたらいけない人種だったみたいね……。お兄さんの言うままに引かせたら、魔石が全部なくなっちゃうわ」
ここまでSSRが出ていないんだ。もう五回やればSSR、それどころかURが出ることだって考えられる。ここで引かずしていつ引くのか!
しかし、俺の意見に賛同したのはシスハだけのようで、俺はノールとエステルにスマホを取り上げられ、シスハと同じようにロープで椅子に縛り付けられた。俺は何を間違えたのだろうか。同じように椅子に縛られているシスハが、同類を見ているような嬉しそうな表情で見てくるがやめてほしい。
◆
ガチャり終えた後しばらくしても、俺とシスハは縛られていた。
「あの、そろそろ解いてほしいのですが……」
「そーだそーだ! 俺達が何をしたっていうんだ!」
ちょっとガチャをしようとしただけなのに、なぜこんな扱いを受けなければならないのか。俺は悪くねぇ! 全部ガチャが悪いんだ!
俺は足をジタバタさせて解放しろとノール達に訴えるが、それでも解放してくれる様子はない。
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみるといいのでありますよ」
「あら、二人共まだお仕置きが足りないの? 今度はこっちいってみる?」
「ヒッ! な、なんで私まで巻き添えに!? や、やるなら大倉さんだけにしてください!」
「お前裏切りやがったな!? ……すみません、本当にすみませんでした! 反省いたしましたので、どうか縄を解いてくださらないでしょうか!」
シスハはさっきまで同類を見るような視線を送っていたのに、エステルが出した杖の先端から電撃が漏れ出た瞬間、俺を見捨てやがった。なんて奴だ!
俺も電撃は受けたくないので、必死になって謝ると、ようやく縄を解いてもらった。ふぅ……どうしてこうなったんだろうか。
「と、とりあえず排出されたアイテムを確認しようか!」
「はぁ、毎度毎度懲りないのね」
「もう手遅れなのであります……」
「大倉さんのこういう図太いところ、私も見習いたいと思います」
これ以上何か言われる前に俺はスマホを手に取って、排出されたアイテムを確認していく。ここでガチャをするという選択肢も頭に過ぎるが、それをしたら、次は何をされるのかわからないからやらない。
エステルが頬を押さえてため息をつき、ノールはモフットを撫で呟き、シスハは俺を見て手を合わせて祈るポーズをしている。何なのこの反応。
ま、まあいいや……とりあえず見ていこう。
【おやつ(残り十回)】
ランダムで一回分のおかしを出すことができる。
食器は使い終わった後、土となって消滅。
残り十回ってカウントがあるってことは消費系だな。説明文を見た感じ、食料と同じ系統か。
試しに一回消費してみると、出てきた物は薄い茶色のクリームが、らせん状に巻かれている洋菓子だった。一番上には丸い栗が乗っている。
これはモンブランってやつか? 一緒にフォークまで出てきたぞ。
「食料のおかし版か」
「こ、これは……」
「お兄さんお兄さん、これ食べてみてもいい?」
「あっ、私も食べてみたいです!」
ノールはゴクリと喉を鳴らして、エステルは珍しく胸の前で両手を握り締めてそわそわしている。シスハはノリで食べてみたいと言っている感じだ。争いになっても困るので、仕方なくさらに二回消費して三人分出すことにした。
次に出てきたのは背の高いグラスに入った、クリームやバニラアイスにピンク色のソースとチョコのソース、シリアルが下に詰まったパフェ。もう一つは細長い黄土色をした物が二つ。これは……芋羊羹かな? モンブランはノール、パフェはエステル、シスハが羊羹とそれぞれ手にとって食べ始めた。
「おお! 甘くてクリーミーで美味しいのであります!」
「ふふ、美味しい。この世界の甘い物も良かったけど、ガチャ産は食料と同じでやっぱり格が違うわね」
「ふぅ……これを食べていると、お茶が飲みたくなってきます」
「あっ、もうなくなっちゃったのであります……。大倉殿、おかわりであります!」
「駄目です。おやつは一日一個な」
「そ、そんなー」
三人共嬉しそうに感想を述べながら食べ進めている。特に笑顔でパフェを頬張るエステルはとても可愛らしい。いつもの雰囲気はなく、純粋な少女としての反応は目の癒しになる。ノールは真っ先に食べ終えておかわりを要求してきたが、好き放題食べさせたら即なくなるから却下だ。
次なるアイテムの確認に移る。
【高級ランプ】
強化されたランプ。
MPを消費し、広範囲に光が届くようになっている。
出た物は、六角形のガラスに入った取っ手のあるランプ。
Rの通常のランプは夜、部屋で使ったりしていたのだが、このランプとどう違うんだ? 広範囲ってどのぐらいなんだろうか。試しにやってみよう。
「へぇー、どれどれ――うおっ!? ま、まぶし――」
ウィンドブレスレットを使う感覚でランプにMPを流した瞬間、一気に発光した。
「うが!? 目が、目がぁぁ、でありますぅ!」
「お、お兄さん! MP使い過ぎ! 手を放して!」
「こ、これは強烈ですね……」
部屋の中が光で満たされて、まるで朝のような明るさだ。直視したのか、ノールがアイマスクの上から目の部分を押さえてうめいている。エステル達は直視していなかったみたいだが、ランプの方に手を向けて光を遮っていた。流し過ぎだと言われて、慌ててランプを手放すと光は収まる。
ランプはすぐに取り上げられて、今後はエステルかシスハが使うことになった。俺とノールはMPの扱いが下手だから仕方ない。うめいていたノールはシスハにすぐ回復魔法をかけてもらい治ったみたいだが、悪いことをしてしまったな。
【洗浄機】
MPを消費し、入れた物の汚れを全て落とす。
生き物を入れないでください。
次に出てきた物は片手で持てる程度の大きさをした四角い白の箱。上の部分が開くようになっていて、ここから中に物を入れると綺麗になるということだろうか?
「随分と小さいな。それにしてもわざわざこんな注意書きするんだな。これに生き物入れようとする奴なんていないだろ、な?」
「……そ、そうでありますね」
洗濯とかするのに便利そうだな。今まではエステルに魔法で洗濯してもらっていたが、これで俺達でも楽にできる。
【エアーロープ】
空中に引っかけることができるロープ。
選択してみると、先端に湾曲した爪が付いたロープが出てきた。かぎづめロープってやつか?
説明欄を見てみると、どうやら空気に引っかかるらしい。試しにと少しだけ何もない場所に投げてみると、俺が思った場所で爪が止まった。グイグイ引っ張ったがピンと張ったロープはビクともしない。そして俺が外れろって思うと、空中で止まっていたかぎづめが床に落ちる。
「空中に引っかかるって……怖くないか?」
「そうですか? 凄く楽しそうですよ」
一応ちゃんと引っかかっているのだが、目に見えない物に引っかかっているのは視覚的に不安になる。
シスハが俺からエアーロープを受け取ると、天井に向けて軽く引っかけてスイスイ登ってブラブラ揺れ始めた。こいつは怖いもの知らずなのか?
【調味料セット】
砂糖、塩、酢、醤油、味噌を基本に様々な調味料のセット。
実体化させ出てきた物は、大きめの箱に詰められた様々な調味料。
これはいいな。暇な時にこの世界に醤油や味噌がないか探してみたけど、見つからなかったから助かる。料理は得意じゃないけど、ちょっとぐらいなら俺でも作れるからな。懐かしの味を楽しみたい。
「これは地味に嬉しい」
「料理をしない私達にはあまり使い道がなさそうね。そういえば、この中で誰か料理ってできるの?」
「自信はありませんけど、私はそれなりにできますよ。神官ですからね」
「私も一応できるのでありますよ?」
「えっ」
「な、何でありますかその反応は!」
嘘だ、絶対嘘だ。ノールが料理できるだなんて俺は信じないぞ。
エステルとシスハも声を出したまま固まっている。料理ができることに衝撃を受けたのか、それとも嘘だろって思っているのかどっちだ? 作れるとか言っているが、塩と砂糖を間違えたり、何か入れる時に蓋が外れて全部ぶち込んだりしそう。これぐらい誤差の範囲でありますよ! とか言ってそのまま作り続ける姿が目に浮かぶ。
俺達の反応が納得いかないのかプンスカと怒っているが、とてもじゃないが信じられないから仕方ない。
【高級アイマスク】
肌触りの良い素材で作られた一品。
視界のON、OFFを選ぶことができる。
「大倉殿! これ! 私これが欲しいのでありますよ!」
「こんなの使うのノールぐらいだからいいけどさ、そろそろ素顔でいられるようにしたらどうだ?」
「そうですね。ノールさんせっかく可愛いのに勿体ないですよ」
「嫌なのでありますよ! と、とりあえずこれは貰っておくのでありますからね!」
「はぁ、まだまだ先は長そうね」
出てきたアイマスクを見てノールが欲しいと騒ぎ出した。そんなに騒がなくても使うのお前しかいないぞ……。
いつ見たのかは知らないけど、口ぶりからシスハも素顔を見たことがあるようだ。エステルがため息をついているのを見ると、素顔のままで行動するのはまだまだ先の話かな。
【録画アプリ】
スマートフォンに録画機能を追加する。
開始時に音がなるので注意。
うおっ! ついに録画アプリまできたか。これで写真だけじゃなくて動画も保存できる。写真は秘密裏に撮っているので、これでさらに捗るぞ!
ノール達はスマホの機能にまであまり興味がないみたいなので、今後もあまり話に出さずにおこう。
【腕カバー】
防御力+100
火耐性強化
青色をした肘辺りまで覆うカバー。上下の端はゴムか何かで締まるようになっていて、外れない工夫がされている。
ほぉ、これを装備するだけで火耐性と防御が百も増えるのか。
「おっ、これはいい物だ。俺が貰ってもいいか?」
「私達は構わないけど……お兄さん、そろそろ格好を気にした方がいいと思うの」
「何でも上に重ねていくのはどうなのかと思うのでありますよ」
「私は大倉さんがどこまでいくのか見届けたいと思います」
うっ、これ合わないのか? 俺としてはいいのだが、周りの人が見てくる視線が痛い。エクスカリバールと鍋の蓋さえ卒業できれば、結構まともに見えるはずなのだが。
そういえば今回もこの二つが出ていたな。アイテムの確率アップ中でも平然と出てきやがる。どんだけ排出率高いんだよ。
【エクスカリバール☆17】
攻撃力+2090
行動速度+130%
【鍋の蓋☆11】
防御力+750
あれ? もう攻撃力二千超えてるぞ……鍋の蓋もかなり上がっている。このままだと俺、ずっとこの装備のままになる可能性が……。
俺は見た目よりも性能重視だから、見た目を気にして装備しないなんて選択肢はとれない。でも、可能ならやっぱりカッコいい装備したいな。マジックブレードとか本当なら使いたい。最近は、ヴォン、ヴォンと自分で言いながら魔法の刃を出すのにはまっているんだ。
【警報機】
一定の範囲に指定された対象以外が侵入した場合に音を発する。
併せてスマートフォンへと通知する。
防犯カメラにスピーカーが付いているような物が出てきた。長細い棒が下に伸びているので、突き刺して設置するようだ。
「うーん、これは使う機会あるのか?」
「あんまり役に立つ気がしないでありますね」
こんな物どう使えばいいんだ。自宅があれば監視カメラのように使えそうだが……。
【ペット小屋】
ペットに最適な環境を再現しリラックスさせる小屋。
四角い箱に三角の屋根が付いている、ごく普通の犬小屋のような物が出てきた。変わったところと言えば、入り口に小さな扉が付いていることぐらいだろうか。
ペットに最適な環境……とりあえずモフット用かな。
「大倉殿! これ、くださいでありますよ!」
「ああ、俺もモフット用だって思っていたからいいぞ」
「むふふ、ありがとうございます、なのでありますよ!」
あげるとは言ったが、今は置く場所もないので俺のバッグに入れておく。モフットも理解しているのか、プーと嬉しそうに鳴きながら俺の足を前足でポンと叩いている。本当に賢いウサギだな……。
さて、次はよいよ今回唯一排出されたSSRだ。
【ハウス・エクステンション】
家に使用することで家の拡張をすることができる。
一つの家に使用すると、他の家には使用できなくなる。
拡張ポイントはガチャから排出された、消費型アイテム以外を変換することで得られる。
ハウスってだけに家関連とは思っていたけど、持ち家がないから今は使えないじゃないか!
しかも説明を見ると一つの家にしか使えないって、これ消費型だぞ。拡張ポイントも必要で、ガチャから排出された物を変換しないといけない、か。いやぁ……これはどうなんだ?
「おいおい……凄くいいのが手に入ったと思ったのに使えないとか……」
「家がないと駄目なのでありますね……」
使ってないからわからないけど、どのレアがどれぐらいのポイントになるのかだ。Rでも十分変換できるのなら、家を手に入れた際には便利だろう。
でも、SR以上じゃないとまともに変換できないのなら……。爆死した残りの使い道ができたと思えばいいのか?
「ねぇ、お兄さん。それならそろそろ家を買ってもいいんじゃないかしら?」
「今は何とかなっていますけど、もう一人増えたら限界かもしれませんね」
家か。家を買うと言っても、やっぱりお高いんだろうなぁ。所持金は既に三千万ギル近くはあるはずだが、これで足りるかどうか。
これ以上仲間が増えるのなら、確かに持ち家があっても良さそうだけど……。