1章 迷宮への挑戦


 この世界に来てから、一体どれぐらい経ったのだろうか。

 始まりはルーナちゃんを狙ってGirlsガールズ Corpsコーズのガチャを回したあの日。俺は見知らぬ世界へ一人放り出された。

 唯一の持ち物だったスマートフォン。

 起動したのはその中に入っていたGCのアプリのみ。異世界に来てしまい、訳もわからない状況にもかかわらずガチャを回すと、排出されたものが実体化された。武器や防具やアイテム、そして──ユニットである美少女達。

 ガチャを回せるだけでも嬉しいというのに、実体化されるなんてワクワクが止まらなかった。

 ガチャのおかげで戦力を整えられた俺は、この世界で冒険者となり依頼をこなし、魔物を狩り、そして冒険者としてのランクを着々と上げた。

 途中ガチャを回すためにデスマーチをしたり、同じ冒険者であるイケメンと勝負をしたりと色々あったけど……まあ、順風満帆な異世界ライフを送れていると思う。

おおくら殿ー、ボーっとしてどうしたのでありますか?」

「私達のことを黙ってじーっと眺めて、どうかしたの?」

「いや、何でもない」

 宿のベッドに寝転がり、この世界に来てからの思い出にふけながらノール達を見ていた。

 俺の視線に気がついた彼女達は、どうしたのかと首を傾げて聞いてくる。

 異世界に来て最初に召喚した、騎士であるノール。お調子者でたまに抜けているところがあるけど、彼女の強さには何度も助けられた。本当に頼りになる奴だ。

 そして次に召喚した魔導師のエステル。彼女の性格から最初は召喚して大丈夫か不安だったが、ただの杞憂だったなぁ。

 たまにからかってきたり、危ないことを口走ったりするけど……基本的に可愛らしい良い子だ。

 そんなことを考えながら視線を外さずにいると、エステルは頬に手を当て、照れくさそうに微笑んだ。

「もしかして私達にれちゃったのかしら? ふふ、しょうがないわね」

「えっ!? そ、そうなのでありますか!」

「ち、違うから! 勘違いするな!」

「あら、残念」

 それを聞いたノールは、手を口に当てて驚いた仕草をしている。

 慌ててそれを否定すると、エステルは残念と言いながら、そうは見えない表情で笑った。

 全く、またからかって……。まあ、こんなやり取りをする日々も悪くないんだけどね。

 この個性的な彼女達と共に、俺は元の世界へ帰るための手掛かりを探すべく、この世界で冒険をしているのだ。

「よし、それじゃあ今日もやるぞ!」

 寝転んでいた体を起こし、スマートフォンを手に持った。そして操作して開くのはガチャ画面。

 その俺の様子を見て、ノールが呆れたようにしている。

「あー、またガチャでありますか……。回していいって言ったでありますけど、魔石の無駄遣いは止めてほしいのでありますよ」

「無駄遣いとは何だ! URが出るかもしれないんだぞ!」

「この前もそんなこと言っていたでありますよね……」

「ふふ、いいじゃないノール。これでお兄さんのガチャ欲も、少しは満たされるんだから」

「うー、そうでありますが……」

 帰る手掛かりを探すと決意したのはいいけど、当てもないので結局いつもの魔石集めを再開していた。

 そのおかげで前回の装備フェスティバルガチャの消費分もだいぶ戻って、現在魔石は四百六十六個。

 このまま次のガチャに備えて、今はひたすら貯めるべき……なんだけど。こう貯まってくると、ガチャを回したくなる欲求を抑えることができない。俺の右手が疼く。

 そんな訳で、ノール達に平伏懇願して、数日に一回単発ガチャを回す許可をいただいた。

 今まで何回か回したけど、【食料】や【ぬいぐるみ】といったR品しか出ていない。その度にノールからもう止めるのでありますよ! とブーイングを貰っているが、止める訳にはいかない。だって悔しいんだもん!

 本日の単発ガチャを回すべく、俺は力強い指先で単発ガチャをタップした。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀。銀で止まった。

【Rぬいぐるみ】

「……う、うおおぉぉ! 今日も張り切って魔石集めに行くぞ!」

「Rが出たからって、何を言ってるのでありますか! 今日は依頼をする日なのでありますよ!」

「えっ、そうだったっけ?」

「もう、お兄さんはガチャのことになると本当にしょうがないわね」

 また【ぬいぐるみ】を引いたことにより、頭に血が上ってしまった。

 今日はノールの言うように、冒険者協会の依頼を受ける予定の日。

 日々の魔石集めだけではなく、Dランクに上がったということで、最近は冒険者協会の依頼もちょくちょく受けていた。

 俺は魔石集めをすることに至上の喜びを感じるが、ノール達はそうもいかない。前の魔石強行軍でノールの発狂未遂もあったし、毎日ジメジメした暗い洞窟にいるのはあまりよろしくないと考えたからだ。

 そのお陰か最近はウィッジさんが、やる気を出してくれたんですね! と喜んでくれている。



「さーてと、今日はどの依頼を受けようか」

 依頼書の貼られた掲示板とにらめっこしているが、どうもあまり良い依頼がない。ディガーのまゆ、十個で五十万ギルなどもあるが、あんなの討伐しに行くのは嫌だ。

 あのワサワサした毛の生えているイモムシなんて、相手にしたくないぞ。

「そうでありますねぇ……。この前倒したラッシュベアーのような、手応えのある魔物を倒しに行くでありますよ!」

「却下だ! あんなのもう相手したくないわ!」

「そ、そんなー」

 ラッシュベアー討伐、報酬十五万ギル。試しにこの前受けてみたのだが……最悪だったよ。

 名前のとおり熊だったんだけど、ラッシュと付いているだけあって、スキルの効果で攻撃されても全くひるまずひたすら突撃してくるクレイジーな熊だった。ノールの攻撃を受けようが止まらず、そのまま俺の方に走ってきた時は肝が冷えたぞ。

 ノールなら問題はないけどさ……俺じゃまだあれは怖いわ。

「エステルは何か希望はあるか?」

「そうねぇ……。普段サソリばかり洞窟で相手にしているから、こないだ討伐したアゲルマウスみたいな集団の魔物がいいわね。やっぱり外でまとめて焼き払うのは、気持ちがいいんだもの」

「……却下で」

「むぅー、どうして?」

「周辺に被害が出るからだよ!」

 アゲルマウス討伐、報酬三十万ギル。

 これはラッシュベアーよりも高かったが、魔物自体はかなり弱かった。名前どおりこれもネズミで、俺でも一回攻撃すれば倒せるぐらい弱い魔物だ。

 ただ数が三十体以上と多く、しかも近づいたら一斉に逃げ出す厄介な習性を持っていた。こいつらのせいで近隣の村で畑などに被害が及んでいたとか。

 被害のあった村の近くを探して、このネズミの討伐をしに行ったんだけど……見つけて早々にエステルが火の魔法をぶっ放して、一撃で壊滅させやがった。

 平原にでっかいクレーターを作って、周囲にあった木々を吹き飛ばし、現場はめちゃくちゃな状態に。

 前回のガチャで排出された【グリモワール『イーラ』】のおかげで火の魔法の威力も上がり、使いたくてウズウズしているみたいだ。

 北の洞窟内だと、危ないから火の魔法は使えないもんな。だからって依頼行く度にあんな状態にしてたら、俺達が討伐対象にされちまいそうだよ。

 意見もまとまらず、どうしたものかと頭を悩ませていたのだが……。

「あのー、もしかしてオークラさんでしょうか?」

 不意に後ろから声をかけられた。

「はい? そうですけど……」

 振り向くとそこには、青年の男性が一人。

 急に声をかけてどう……あれ? この人どこかで会ったような……あっ!?

「ラ、ラウルさんですか!?

「はい、お久しぶりです。覚えていてくださったようで、嬉しい限りです」

「あはは……すぐ思い出せなくて申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず。ノールさんもお元気そうで」

「私はいつも元気なのでありますよ!」

 俺がこの世界にやってきて、グリンさんと一緒にいた初めて出会った現地の人だ。あれから一度も会っていなかったけど、まさかこんなところで再会するとは。

「一緒にいるその子は……」

「あっ、紹介しますね。この子は同じパーティのエステルです」

「よろしくね」

「とても可愛らしい子ですね。私は商人のラウルと申します。よろしくお願いしますね」

 エステルに手を向けて、ラウルさんに紹介した。彼女はいつもどおりのにこやかな表情で、可愛らしく挨拶をする。あざといなぁ。

 ラウルさんは笑顔でそれに応えた。エステルスマイル相手に軽く返してくるとは……さすが商人だな。

「エステルさんは……魔導師、ですよね?」

「ええ、そうよ」

 魔導師で冒険者をしている人は少ないって話だから、気になるのだろう。

 シュティングの冒険者協会に来たばかりの時はよく視線を感じたけど、最近は馴染んだのかだいぶ減ったな。

「本当に魔導師までいるとは……噂には聞いていましたが、本当にすごいパーティみたいですね」

「えっ……う、噂ですか」

「はい、オークラ・ヘイハチという冒険者が、Bランク冒険者と対決して勝ったこと。スティンガーの甲殻を大量に市場に流しているなど、商人の間ではついこの前までオークラさん達のことで持ち切りでしたよ」

「あっ、はは……そ、そうでしたか」

 な、何だと……そんな噂が広がっていたとは。

 Bランクの冒険者とは、以前訳あって対決したディウスのことだ。ディウスの方はわかるけど、スティンガーの甲殻のことまで広がっているなんて……まあ、別に隠したりはしてないから不思議じゃないか。

 ガンツさん以外の武器屋にも、甲殻やハサミを売りに行っているし。俺達が売り過ぎて、スティンガーの素材の相場がかなり下がったぐらいだ。

 俺としては魔石集めのおまけ程度だから問題はない。

 そんなちょっとした会話をしてから、ラウルさんは一呼吸置いて、別の話を切り出してきた。

「オークラさん、話は変わりますが、よろしかったら私の依頼を受けていただけないでしょうか?」

「依頼、ですか?」

「実はこれからシュティングの西にあるスブルクという街まで行く用事があって、護衛をしてくれる方を探していたんですよ。往復していただきたいのですが、どうでしょうか? 報酬は三十五万ギルで考えています」

 うーむ、護衛依頼か。長くなりそうだけど、どの依頼にするか迷っていたし、マンネリ気味の狩りに少し間を置くのもいいか。

 それにラウルさんには恩もあるし、あの時のお礼はしておきたい。

「わかりました。その依頼、引き受けます」

 さっそく協会にラウルさんが依頼を申請し、俺がその場で引き受ける。そしてお互い準備をするために、今日は解散した。

 別れた後、エステルがどんな経緯いきさつで知り合ったか教えてほしいと言うので、あの時のことを話しながら移動をすることに。

「へぇー、そんなことがあったのね」

「ああ、ラウルさんに出会ってなかったら、あの頃苦労していただろうな」

「そうでありますね。あそこであの人達に出会えたのは幸運だったのでありますよ」

 出会わなくてもやっていくことはできたと思うけど、グリンさんとラウルさんに会ったおかげで、よりスムーズにこの世界に馴染むことができたのは間違いない。

 もし会っていなかったら冒険者協会や素材の買取なんて知らなかったし、お金だってない状態だったはずだ。

 そう思うと、ノールの言うようにあの出会いは本当に幸運だった。

「お兄さん達の恩人ってことなら、頑張って護衛をしなくちゃね」

「私も頑張っちゃうのでありますよ! エステル、共に気合を入れるのでありますよ! えい、えい、おー!」

「おー!」

「あんまり頑張り過ぎるなよ……」

 ノールはガッツポーズをしながら叫び、やる気満々だ。そんな彼女に促される形で、エステルも片手で杖を掲げて、キリッとした表情で叫ぶ。

 やる気になってくれるのはいいんだが、ノール達がやる気を出すと逆に危ない事態になるから不安になるんだけど……大丈夫かな。



 依頼当日。

 早朝からラウルさんと合流した俺達は、シュティングを出発した。

 俺とエステルはラウルさんが手綱を取る馬車の荷台に乗せてもらっている。そしてノールはというと……。

「おーいー! ノール、本当に大丈夫かー!」

「だ、大丈夫でー、ありますよー!」

「よっぽど前に乗った馬車がトラウマになっているのね」

 俺が後ろを見て叫ぶと、ノールは手を振りながら返事をしてきた。

 そこそこの速さで走る馬車の後ろを、ノールは走って付いてきている。

 別にこれは俺が走れとか言った訳じゃなくて、彼女自身が走りたいと言うからこうなっただけだ。

 前に乗った時に酔ったのがそこまでトラウマになっているとは……前に走った方がいいんじゃないかって思ったけど、まさか本当にやるとは。

 さすがにどうかと思い、馬を借りることを提案したんだけど……断られた。

 緊急の依頼じゃなくても、協会に頼んでお金を払えば貸してもらえるみたいなのだが……荷台に乗れないのは自分のせいなので、お金を出してまで気を使ってもらうのは申し訳ないのでありますよ! と言って、意地でも馬には乗らないと拒んだ。

 別にお金には余裕があるから良かったのに……変なところで律儀な奴だな。

「あのー、本当にあのままで平気なんでしょうか?」

「あー、一応この子に支援魔法をかけてもらっているので、大丈夫だとは思いますが……」

「見ているこっちが疲れてきそうね」

 出発してから、ラウルさんが何度も本当にこれでいいのかと聞いてくる。

 何だったら歩く速度に合わせて進みましょうか、と提案までしてくれたが、ノールが私のせいで遅くなるのは申し訳ないのであります! と、これも断った。

 本人がいいと言っていても、見ている方としては何だか胸が痛い。エステルも同じ気分なのか、ノールに支援魔法を途切れないように何度もかけてあげているぐらいだ。

 俺も後でポーションでもあげるか……。

 それから日が暮れるまで移動を続け、本日の移動は終了。野営の準備をして、ラウルさんと共にき火を囲み食事をすることに。

「今回はオークラさん達に頼めて助かりました。最近は何かと物騒で、魔物の被害に遭う商人仲間が結構出ているんですよ」

「そういえば私達も、ブルンネから王都に行く馬車に乗っている途中、ミノタウロスに襲われました」

「あれってよくあることなのね」

 ラウルさんの話を聞いて、初めて馬車に乗った時に、ミノタウロスに襲われたことを思い出した。

 あの時は他のCランク冒険者もいたし、既にエステルもいたからそこまで脅威にはならなかったけど。

 あんなのによく襲われるなんて、長距離の移動は護衛必須じゃないか。

「最近はそうですけど、前はそんなことはなかったんですよ。魔物の行動が活発になっているみたいで、生息地から離れた場所にも現れることが増えているようです」

「なるほど……何だか嫌な予兆みたいで怖いですね」

 生息地から離れたねぇ……そういえば、グリンさんと護衛依頼をした時も変な場所にサイクロプスがいたっけ。

 異常事態みたいなことがこうも起こっていると、これから何かありそうで怖いな。

「むふふー、美味しいのでありますよー」

「あれだけ走ったのに、よく食べられるわね」

「むしろ走った後だからいつもより美味しく感じるのであります!」

「本当に呆れるぐらいノールは体力があるのね。少しでもいいから私に分けてほしいわ」

「でしたら私と毎朝ランニングして、同じぐらい食べるのでありますよ! そうすれば、このぐらいすぐなれるのであります!」

「いや、無理だろ」

 ちょっとシリアスになりつつあった雰囲気をまるで気にせず、ノールがパクパクとご飯を食べて幸せそうにしている。

 ずっと走っていたというのに、それを感じさせないぐらい元気いっぱいだ。

「ほ、本当に凄いですねノールさん……」

「あはは……元気なのが取り柄ですから」

 俺とラウルさんは苦笑いしつつ、少し和んだムードで会話を続けた。



 シュティングを出発してから二日後。

 何事もなく進んでいたが、ついに異変が訪れた。

「ラウルさん! 一旦止まってください!」

「は、はい!」

 地図アプリで周囲を確認していると、前方にかなりの数の赤い点が出現した。

 二十個近くはあるぞ……かなり多い魔物の集団だな。

「どうかいたしましたか?」

「こっちに向かってくる魔物がいるみたいです」

「えっ……ま、魔物ですか!」

 前方から真っ直ぐ進んでくる赤い点。とても回避できそうにないので、迎撃するために俺達は馬車から降りて待ち構える。

 少し待つと、遠くの方から徐々に黒い集団がゾクゾクと歩いてきた。ゴブリンよりちょっと大きいサイズで、頭部が犬に似ている魔物だ。

 全身黒みを帯び、そこそこ長い石で造られた簡素なやりを持っている。なんだこいつら?

「あ、あれはハイコボルトです!」

 その姿を見てラウルさんが叫んだ。

 ハイコボルトか……コボルトって聞くとそう強く思えないな。一応ステータスは見ておこう。



 ハイコボルト 種族:コボルト

 レベル▼25 HP▼3500 MP▼0

 攻撃力▼250 防御力▼80 びんしょう50 魔法耐性▼0

 固有能力【なし】 スキル【なし】



 うん、弱い。でも通常のコボルトじゃなくて、いきなりハイコボルトか……待てよ? こいつもしかして希少種じゃね?

「よっしゃ! るぞ! 焼き払え、エステル!」

「えっ、いいの? ふふふ、任せて!」

「ちょ、お二人共!? 落ち着くでありますよ!」

 こんな大量に希少種が出てきたのかと、俺は喜々としてエステルに魔法で攻撃してくれと頼んだ。

 それを聞いた彼女は、目を輝かせてゴソゴソとバッグから赤い【グリモワール】を取り出して杖を構える。

 直後、赤い魔法陣がエステルの真上に展開され、いつものあの炎の玉が形成されていく。それがある程度の大きさに膨れ上がってから、彼女は杖をコボルト達に振り向ける。

 宙で固定されていた玉は射出され、先頭を歩いていたハイコボルトのど真ん中に命中。そして爆発炎上。黒い爆煙がモクモクと空に向かって伸びていく。

 風が吹いて煙が晴れると、そこには何も残っておらず、いつもどおりの綺麗なクレーターが現れた。

「ハ、ハイコボルトが一瞬で……こ、これでDランクですか……」

 それを見ていたラウルさんは、口を開けて唖然とした表情で固まっている。

 あっ……やり過ぎたかも。

 ちなみに、この後スマホを確認したところ魔石は増えていなかった。ハイコボルトは希少種ではなかったみたいだ……残念。



 ハイコボルトの襲撃後、無事スブルクに到着して、荷を下ろしてまた新たな荷を積み、王都へと帰ってきた。

 帰りは魔物に襲われることなく、スムーズに帰ってこられた。

 ノールは結局最初から最後まで走っていた……本当に凄いな。

「護衛していただきありがとうございました。積み込みまで手伝っていただいて、申し訳ありません。オークラさん達には、またお世話になってしまいましたね」

「いえいえ、こちらこそ前にお世話になりましたので。あの時は本当に助かりましたよ」

 シュティングへ入った後、ラウルさんは依頼達成の証明書を渡してくれた。

 依頼とはいえ、ちゃんとお礼ができたみたいで良かったよ。

「まさかあの時会った方々が、冒険者になってこうしてまた護衛をしてくださるとは思ってもいませんでした。思い返せば、あの時からオークラさんもノールさんもお強かったですね」

「いえ、私はあの頃は……彼女はあの頃からとても強かったですけど」

「むふふ、あの頃の大倉殿は、私におんぶしてくれと言ったり情けな──むぐっ!? や、やめりゅでありまふよー」

 ノールがニヤニヤしながら言ってきたので、思わず彼女の頬を両手で掴んで引き伸ばしてしまった。

 確かに、確かにあの頃はそんなこともあったけど……今はもう違う! ……たぶん。

「あはは、あの時から変わらず仲が良いんですね」

「うぅ……これは仲が良いと言うのでありますでしょうか? 私、いじめられているのであります」

「情けないとか言おうとするのが悪いんだろうが」

 俺とノールのやり取りを見て、ラウルさんは笑った。そういえばあの時もこんなやり取りをしたような……何だか懐かしい気分だ。

「それでは、オークラさん、ノールさん、エステルさん、お元気で。またお会いする機会がございましたら、よろしくお願いしますね」

「はい、またお会いしましょう」

 ラウルさんは頭を下げて一礼し、馬車へと乗り込み馬を進めた。俺も頭を下げ、去っていく彼を見送る。

 いやー、この世界で初めて出会った人と偶然再会するなんて。こんなこともあるんだな。

 そんなことを思い出しながらしみじみしていると、ツンツンと服の裾を引っ張られた。見てみると、頬を膨らませて不満そうにしているエステルが。

「むぅー、私を仲間はずれにして楽しそうに話すなんてずるいわ」

 エステルがいない頃の話だったせいで、会話に参加できなかったことに怒っているみたいだ。

「えっ、そ、そういうつもりじゃ……」

「エステルだって大事な仲間なのであります! ギュッとしてあげるのでありますよ!」

「むぐっ……く、苦しい……。き、気持ちは嬉しいけど、離してもらえないかしら……」

 そんなエステルをノールが抱き締めると、少し強めなのか苦しそうにしている。だが、まんざらでもないのか嬉しそうだ。